ホリデーシーズン真っ只中ですね。この時期のニューヨークは、街全体がクリスマスツリーのようにキラキラと輝いています。街頭も、クリスマス休暇を楽しむ観光客や、プレゼントを買いに急ぐニューヨーカーなどで、いつもとはまた違う賑わいを見せます。
そんな摩天楼のホリデーシーズンを描いた映画は数多く、有名どころで言うと『34丁目の奇跡』、『エルフ』、『ホームアローン2』、ロマンス映画だと『セレンディピティ』などでしょうか。そこで、今回は王道からちょっと外れて、一癖あるホリデー映画をご紹介しようと思います。

ニューヨークが舞台のホリデー映画、私のお気に入りは1960年制作『アパートの鍵貸します』です。監督は巨匠ビリー・ワイルダー、主演は喜劇俳優ジャック・レモン、そして若いシャーリー・マクレーンがとってもキュート。タイトルからはわかりにくいですが、小気味良いテンポで綴られる恋愛劇です。
大企業に勤め出世を目論むバドは、上司の情事のために自らのアッパーウエストサイドのアパートを貸している。そんな彼は同僚のエレベーターガールに恋焦がれているが、ひょんなことから上司が自分のアパートで逢引しているのは彼女だと気づき・・・。
今作の魅力は、何よりも脚本の秀逸さ。設定や登場人物の魅力を無駄のない脚本で表現する一方、張られた伏線の回収も見事。笑ったり、感心したり、気づけばすっかりその世界に魅了されているのに、エンディングはあっけないほどに潔い。さすが、名作を多く残したワイルダーらしい、爽快な一作です。

練り尽くされた脚本から打って変わって1995年制作の『スモーク』は、キャラクター各々の魅力をじっくりと描いた作品。ハーヴェイ・カイテル演じるブルックリンの小さなタバコ屋の主人オーギーと、彼を取り巻く人々の物語です。
時に諍いを起こしたり、辛い時には慰めあったり、常にお互いを思いやる気持ちが垣間見え、暖かい気持ちになる一作。冬以外のシーンも多いですが、やはり一番記憶に残るのは、最後のオーギーのクリスマスの思い出話ではないでしょうか。
『スモーク』は、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたクリスマスの小話を元に制作されました。ウェイン・ワン監督がこの小話に惚れ込み、映画化を熱望したそう。それが、映画の終盤に披露されるオーギーの思い出話なのです。独特な世界観と登場人物の魅力で、今でもファンの多い秀作です。

次は、趣向を変えてミステリーはいかがでしょうか。『影なき男』は、1934年制作のコメディ探偵映画。ある研究者の失踪から始まる連続殺人事件を、カリフォルニアから来た元探偵とその妻が追う物語です。
謎解きが話の主軸ではありますが、今作は完全に主役夫婦の魅力を楽しむ映画です。ウィリアム・パウエルとマーナ・ロイ演じるニックとノラ夫婦は、若くて裕福でとにかくスタイリッシュ。お互いをからかう様子がとても愛らしいです。そこに、飼い犬であるワイヤーフォックステリアのアスタが良いアクセントを効かせています。
ストーリーも、とにかくテンポが良くて飽きることがありません。今作は公開当時から好評を博し、その後『影なき男』シリーズとして、主演の二人を続投して全6作制作されました。年末年始、時間に余裕のある時にまとめて観るのも良いかもしれませんね。

愉快な気持ちになる印象が多いホリデー映画ですが、最後は怪しい魅力のある一作を。1999年制作『アイズワイドシャット』は、言わずとしれた名監督スタンリー・キューブリックの遺作。人気絶頂だったセレブリティ夫婦のトム・クルーズとニコール・キッドマンの共演も、大きな話題を呼びました。
ニューヨークに住む裕福な医者ビルは、美しい妻アリスの告白の衝撃から家を飛び出し、夜の街を徘徊する。たどり着いたのは、ロングアイランドの豪邸。そこで繰り広げられていたのは、仮面を被った者たちが執り行う秘密儀式だった・・・。
オープニングのキッドマンの後ろ姿からから最後の台詞まで、何が出てくるか予測不可能な今作。15ヶ月、46週間にも渡る撮影期間を要したことも語り草となりました。『博士の異常な愛情』や『時計じかけのオレンジ』など、タブーを取り扱った作品が多いキューブリックらしく、公開時から今まで賛否両論を呼び続けている一作です。
いかがだったでしょうか。ニューヨークのホリデー映画と言っても、さまざまなムードやジャンルの作品があったと思います。それはこの大都会の、文化背景も考え方も多種多様な人々にも通じるのではないでしょうか。皆さまのホリデーの良きお供となれば幸いです。

『アパートの鍵貸します』
監督:ビリー・ワイルダー 1969製作 /125分 / アメリカ
出世のために、上司の逢瀬場所として自らのアパートを貸し出すバド。その甲斐あって昇進を約束されるが、その上司の愛人はバドが思いを寄せるエレベーターガールだった・・・。公開当時から高評価で、1960年度アカデミー最優秀作品賞、監督賞、脚本賞など5部門を受賞したコメディの名作。
『スモーク』
監督:ウェイン・ワン 1995年製作 / 113分 / アメリカ・日本
ブルックリンの街角でタバコ屋を営む男オーギーと、彼を取り巻く人々の群像劇。登場人物それぞれの悲しい過去や悩みを通して、彼らに生まれる絆を描いている。ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたポール・オースターの小話が原作で、彼は脚本も担当。第45回ベルリン国際映画祭の審査員特別賞を受賞。
『影なき男』
監督:W ・S・ヴァン・ダイク 1934年製作 / 92分 / アメリカ
カリフォルニアから越してきた元探偵ニックは、旧友の研究家ワイナイトの娘から彼の失踪事件の捜査を依頼される。ニックは捜査を渋るが、やがて連続殺人事件に発展し・・・。洒落の効いたセリフや、テンポの良い展開で進むコメディ推理劇。好評を博し、1947年までに全6作が製作された『影なき男』シリーズの第1作目。
『アイズワイドシャット』
監督:スタンリー・キューブリック 1999年製作 / 159分 / イギリス・アメリカ
裕福な医師ビルはクリスマスパーティーの後、妻から衝撃の告白を受ける。ショックを受けたビルは夜のニューヨークを徘徊するが、事は思いもよらない怪しい展開を見せる・・・。名監督スタンリー・キューブリックの遺作であり、その題材やキャスト、制作期間の延長から多くの話題を呼んだ。
