ウォッチパーティーを知っていますか?ウォッチパーティーとは、映画をファンの皆で観ながら一緒に楽しむイベントです。個人で開くこともできますが、映画館で開催されるウォッチパーティーは、より特別感が増します。
ウォッチパーティーがよく開催される映画と言えば、『ウィキッド』のようなミュージカルや、『スターウォーズ』シリーズのようなコアなファンが多い作品を思い浮かべるかと思います。コスプレして参加したり、みんなで合唱したりする印象でしょうか。
そんなウォッチパーティーですが、私はコアなファンと自称できるほどの作品が無いため、参加を躊躇していました。が、ある映画を観たことがきっかけで生まれて初めて、参加することとなりました。
それが、ジェームズ・フランコ監督・主演の『ディザスター・アーティスト』。この作品は、「史上最低な作品」としてカルト的地位を確立している映画『ザ・ルーム』の製作過程を描いたストーリーです。
ここでまず、『ザ・ルーム』についての説明を。この作品は、2003年にトミー・ウィゾーによって製作・監督・主演された映画です。このウィゾー氏は、出身や年齢などの素性が霧に包まれている人物。『ザ・ルーム』以前の映画経歴も特になく、分かっているのは、彼が今作の完成を熱望し、資金調達が難航したため自費で製作することに至った、ということのみ。
では、なぜこの映画が「史上最低な作品」という汚名を被ることになったのでしょうか。映画データベースサイトIMDBのレビューによると、「まるでエイリアンが人間になりすまして書いたような脚本だ」とのこと。結婚間近のカップルが不仲になっていくシンプルなあらすじなのですが、張られた伏線は全く回収されず、ストーリーの繋がりが皆無。同じような場面が繰り返され、内容の無い会話とメロドラマのような感情爆発シーンが混ざった、観る側がどう受け取れば良いのか困惑する作品です。
ただ、レビューの多くは低評価ですがよく読んでみると「クオリティは全く高くないけど楽しめる」「酷すぎて逆に面白い」など、実はポジティブな内容が多いのです。個人的見解ですが、真剣に製作したことは十分に伝わってくるのですが、不自然なカットや、選曲、演技、同じようなセリフの連続などの小さな違和感が重なって、意図的には決して出せない滑稽さを奇跡的に作り上げてしまった印象です。
その奇妙な中毒性から2003年の公開以降、じわじわとコアなファンを得てきた『ザ・ルーム』ですが、2017年の『ディザスター・アーティスト』公開によって、ルネッサンス的な展開を迎えることとなります。
『ディザスター・アーティスト』でトミー・ウィゾー役を演じるのは、監督も務めたジェームズ・フランコ。彼の演技が無駄に再現度が高い。下手な演技を高い演技力で再現する、というねじれ現象が起きています。更に特筆すべきは、『ザ・ルーム』並びにウィゾー氏を馬鹿にしているわけではないということ。納得いくまで何度も撮り直しを重ねたり、疑問を呈するスタッフをもろともせず製作に打ち込むトミー。そこに、情熱のみで突っ走る爽快さ、他人の評価を気にしない潔さを学ぶことができます。
私は、鑑賞前に『ザ・ルーム』について多少予習して挑みましたが、知らなくても十分に楽しむことができます。でも、やはり元ネタとなった作品に興味が沸くもの。そして、『ディザスター・アーティスト』公開に合わせて映画館で『ザ・ルーム』のウォッチパーティーが開催されることを知り、参加することにしたのでした。
今はもう閉館したソーホーのサンシャイン・シネマで開催されたウォッチパーティー。会場に入るやいなや、参加者たちの興奮を感じることができました。通常の上映と違うのは、「ウォッチパーティーでは何もあり」ということ。やじを飛ばしたり、歌ったり、セリフを一緒に言ったり、盛り上がれば盛り上がるほど良いのです。なぜかプラスチックのスプーンを大量に持っている人を横目にしながら、上映は始まりました。
オープニングの映画タイトルの時点ですでに会場は大興奮。やたらサンフランシスコの湾岸線が出てくるので、その度にみんなで「water!」と叫びます。このように、ウォッチパーティーでは、映画ごとにするお決まりごとがあります(アイドルのコンサートでファンがするルーティーンに似てるかも?)。もちろん知らなくても大丈夫なのですが、そのお決まりごとをすることでより一体感を感じることができます。
その後も、浮気をするリサが登場する度にブーイングが起こったり、「You are tearing me apart, Lisa!」という有名なセリフを一緒に言ったり。極め付けはスプーンの映った写真立てが出てくるシーン。みんなで「Spoon!」と叫び、プラスチックのスプーンをスクリーンに向かって投げつけます。「だからみんなスプーン持っていたのかぁ」となんだか感心してしまいました。
そんなこんなで大盛り上がりのウォッチパーティーは終了。映画の内容よりも、みんなで一体となって盛り上がることの楽しさが十二分に堪能できるイベントでした。自分の大好きな映画なら、さらに感動はひとしおだと思います。今回でウォッチパーティーの鑑賞所作を勉強できたので、次回『ザ・ルーム』を観る時はプラスチックのスプーンを持参しないとなぁ、なんて思いながら帰路に着きましした。もし皆さんもご興味があれば、YouTubeなどで「The room watch party」と検索するとウォッチパーティーの様子が見れるビデオが出てきますので、ぜひ。
『ザ・ルーム』
監督:トミー・ウィゾー 2003年製作 / 99分 / アメリカ
サンフラシスコに住む若いカップルのジョニーとリサ。結婚間近にも関わらず、リサは現状に不満を抱き、ジョニーの親友マークと浮気を始める。主演を務めるトミー・ウィゾー氏が、600万ドルの資金を投じて自ら製作。公開当時の興行収入は振るわなかったが、その後カルト的地位を確立した作品。
『ディザスター・アーティスト』
監督:ジェームズ・フランコ 2017年製作 / 103分 / アメリカ
1998年サンフランシスコ。俳優志望のグレッグは、演技クラスで一風変わった男トミーと知り合う。ロサンゼルスに引っ越すもなかなか機会に恵まれない二人は、自身で映画を作ることを思い立つが・・・。カルト的映画『ザ・ルーム』製作の舞台裏を、出演俳優が記した手記を元に製作されたコメディ映画。