夏真っ盛りですね。暖かくなると、冬眠から目覚めたかのように外に出始めるニューヨーカーたち。「こんなに人っていたの?」と、ちょっと驚くぐらいです。そして、そんなニューヨーカーがこよなく愛する夏。街中ではストリートフェアが開催され、公園でピクニックをし、ビーチへ海水浴に繰り出します。
夏は野外のイベントも数多く開催されます。セントラルパークでのシェイクスピア·イン·ザ·パーク、ブルックリンのスモーガスバーグ、ガバナーズ島でのミュージック·フェスティバルなど、自分の好みに合うイベントがきっと見つかるはず。
そんな中で頻繁に開催されるのが、野外での映画上映。大きめの公園などで開催され、ほとんどが無料のイベントです。ニューヨーク市内のいたるところで見つけることができ、ラインナップも万人が楽しめる映画が多い印象です。

私も映画好きとして、野外上映には何度も足を運びました。夕方頃から場所取りを始め、暗くなった頃に上映が始まります。ピクニック感覚で寝転んだり、食事を楽しみながら観る映画は、映画館や家とはまた違う感覚で新鮮です。そんな野外上映の中で、特に思い出深かったものをご紹介します。
ミッドタウンのタイムズスクエアとグランドセントラルの間に位置するブライアント·パーク。敷地内には、ライオンの像で有名なニューヨーク公立図書館も建っています。そんな、都市のど真ん中の広い芝生で開催されるのが、Summer Movies under the stars。毎年6月から8月にかけて、月曜日に開催されます。私は「フォレスト·ガンプ」「オズの魔法使い」「麗しのサブリナ」などを鑑賞しました。
かなり人気のイベントなので、場所取りが一苦労。芝生開放の時間が迫ると、みんな芝生の端にずらっと並び始めます。開放と同時に一斉に走り出し、レジャーシートやビーチタオルで場所を取り合うニューヨーカーたち。あっという間に芝生は埋め尽くされ、数時間遅れて到着しようものなら、すでに場所は全く空いていません。でもそんな競争を勝ち抜けば、あとは映画を楽しむのみ。暗くなると、より一層周りの高層ビルの存在が際立ち、摩天楼の夏らしい思い出を得ることができます。


ある夏、私は友人を誘ってマンハッタンの北部、ワシントンハイツでの野外上映に行きました。上映されたのは、ルイス·ブニュエル監督のコメディー映画「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」。公園で会話を楽しむうちに上映が始まり、そこで初めて気がついたのは、この映画がフランス語だということ。そしてなんと、字幕はスペイン語だということでした。というのも、ワシントンハイツは中南米からの移民が大多数を占めるエリアであり、英語よりもスペイン語を第一言語とする人が多いからなのです。
フランス語もスペイン語もわからない私たちは、全く内容が理解できません。帰るのもなんとなく悔しいので、「これはきっとこんなこと言ってるんだ」と推測し合いました。たまに英語のセリフが流れようものなら、「意味がわかる~!」と大騒ぎ。なんとも面白い経験をしました。

思い出深い野外鑑賞といえば、クイーンズのアストリアで観た「たんぽぽ」。言わずと知れた伊丹十三監督の名作です。アストリアは、マンハッタンからイーストリバーを越えてすぐ、クイーンズの西端に位置するエリアです。比較的治安の良い場所で、日本食スーパーやラーメン店なども数多くあります。そんな、ニューヨークのスカイラインを臨むアストリアで観た「たんぽぽ」は、遠い日本の地を懐かしむことができた上映でした。


そんな、たくさんの思い出があるニューヨークでの野外上映。私のお気に入りの夏のアクティビティです。最近では、日本でも野外上映のイベントが増えてきました。暑すぎると大変ですが、開放的な場所で大画面で映画鑑賞するのは、とても気持ちの良いものです。皆さんも、今年の夏の予定に取り入れてみるのはいかがでしょうか?
ブライアント·パークSummer Movies under the stars(英語)
『麗しのサブリナ』
監督:ビリー·ワイルダー 1954年製作 / 113分 / アメリカ
ニューヨーク郊外の大富豪ララビー家に仕える運転手の娘のサブリナは、ララビー家の次男デイビッドに秘かに恋している。サブリナは気持ちを伝えることができないまま、パリへ料理修行に旅立ち、2年後に見違えるほど洗練されて帰郷する。巨匠ビリー·ワイルダーと、「ローマの休日」で一躍スターとなったオードリー·ヘップバーンがタッグを組んだ不朽の名作。
監督:ルイス·ブニュエル 1972年製作 / 102分 / フランス
南米のとある国の駐仏大使アコスタと友人のデブノ夫妻らは、パリの邸宅やレストランで食事をとろうとするが、その度にトラブルに巻き込まれる。欲求不満に陥り、次第に苛立ち始めるブルジョワ達を滑稽に描くコメディ。1972年度アカデミー外国語映画賞を受賞。
監督:伊丹十三 1985年製作 / 115分 / 日本
女店主たんぽぽが営むラーメン店は、経営が苦しい。そこへ客としてやってきたタンクローリー運転手のゴローが、店を立て直す手助けをする。たんぽぽのストーリーを軸に、食にまつわる奇想天外なエピソードを取り込んだ異色の作品。伊丹監督が自身で「ラーメンウエスタン」と称し、アメリカで大ヒットを飛ばした一作。