Ep.10 映画ロケ地案内〜セントラルパーク〜|ニューヨーク映画案内

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かなり前のことです。セントラルパークを散歩していた時、不自然なほどに背筋の真っ直ぐ伸びた、やけにファッショナブルな高齢者の団体を見かけました。不思議に思い周りを見回してみて初めて、自分が映画ロケに居合わせていたことに気がつきました。

この時見かけた映画ロケは、2007年のディズニーミュージカル『魔法にかけられて』。「想いを伝えて」という、セントラルパーク中を踊り歌いながら展開するナンバーの撮影現場だったのです。

マンハッタン最大の公園セントラルパークは、昔から映画のロケ地として使われてきました。敷地内には、美しい並木道や動物園、ロマンチックな噴水など、様々な観光スポットがあります。そして、秋は園内の木々が紅葉で美しく映える時期。今回はそんな季節にちなんで、セントラルパークのシーンが印象的な作品たちをご紹介します。

ロマンティックコメディの金字塔といえば、メグ・ライアンとビリー・クリスタル主演の『恋人たちの予感』。長く友人として交流してきた男女、ハリーとサリーが恋に落ちるストーリーで、登場人物のチャーミングさと小気味良い会話劇が有名です。また、今作に登場するサンドウィッチ店「カッツ・デリ」は今でも大人気の観光スポットです。

サリーが女友達とランチをしながら恋愛話に花を咲かせるのは、セントラルパーク内の「ローブボートハウス」。湖に面したテラス席が有名な高級レストランです。テレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』にも登場しました。

そして何より印象深いシーンは、秋真っ盛りのセントラルパークをハリーとサリーが散歩するシーン。画面いっぱいの目にも鮮やかな紅葉と、80年代のノスタルジックなファッションが見事にマッチして、見ているだけでうっとりするシーンです。秋を象徴する映画シーンのランキングで常連なのも納得。

1979年の名作『クレイマー、クレイマー』にもセントラルパークが登場します。この作品、タイトルを不思議に思った方も多いのでは。実は、これは原題を『Kramer vs Kramer』といい、離婚調停で同じ苗字を持つ元夫婦が対峙する際に使われる表現なのです。つまり、これは「クレイマー氏とクレイマー氏の離婚調停」という意味。こう聞くと、何が主題なのか分かり易いと思います。

突然家を出た妻に代わって、幼い息子ビリーの育児に追われるテッド・クレイマー。最初は強がっていた彼も、予定調和ではいかない子育てに苛立ちつつ息子と固い絆を結んでいきます。一緒にフレンチトーストを作るシーンと、サントラに使われたクラシック曲が有名。

そして、またも突如戻ってきた妻、ジョアンナ・クレイマー。テッドを振り払い母親の胸に飛び込んでいくビリーのシーンは、セントラルパークの並木道「ザ・モール」で撮影されました。かつてビリーに自転車を教えた場所で、テッドは一人立ち尽くします。そして親権を主張するジョアンナによって、二人は泥沼の調停に向かうことに。まだ離婚調停を真っ向から描いた作品は珍しかった時代、現代の家族のあり方を問う良作です。

『クレイマー、クレイマー』で悩める父親役を演じたダスティン・ホフマンが、同じく主演を務めた1976年制作『マラソンマン』。フィルムノワールを彷彿とさせるサスペンススリラーです。

マラソン選手のアベベを崇拝する大学院生ベーブは、セントラルパークの貯水池「レザボア」沿いを走り、タイムを測るのが日課。しかし、兄が殺されたことから、第2時世界大戦から続く陰謀に巻き込まれることになります。

レザボアは、今では「ジャクリーン・ケネディ・オナシス貯水池」と呼ばれ、マンハッタンのパノラマを望める場所として有名。周囲の道は、長らくジョギングコースに使用されていますが、『マラソンマン』の手にかかると異様な不気味さを醸し出します。また、謎の美女エルザとベーブのデートシーンにセントラルパーク動物園が登場したり、ラストでもセントラルパークが大きな役目を果たしています。

セントラルパーク東側に位置するメトロポリタン美術館。ニューヨークのシンボルとも言えるこのミュージアムも、映画のロケ地として頻繁に使用されてきました。前述の『恋人たちの予感』や、1999年の『トーマス・クラウン・アフェアー』、最近では『オーシャンズ8』などもその一部です。

そんなメトロポリタンが舞台のドキュメンタリーが『メットガラ ドレスをまとった美術館』。2017年制作の今作は、毎年5月に開催される大規模なファッションチャリティーイベント「メットガラ」の舞台裏を描いたドキュメンタリーです。

セレブリティがファッションデザイナーとタッグを組み最高の装いを披露するメットガラは、世界中が注目するイベント。その総指揮を取るのが、米ヴォーグ誌の編集長アナ・ウィンターです。『プラダを着た悪魔』のモデルと噂される彼女は、世界のファッション業界を牛耳るドン。そんなウィンターの名声をかけたイベントは、全てが規格外です。

ファッション業界の裏側を覗き見ることができる今作ですが、ミュージアムを大々的なイベント会場に変える様子も一見の価値あり。さらに、メトロポリタンの誇る服飾部門、コスチューム・インスティチュートについても学ぶことができます。今年6月、37年間務めたヴォーグ誌編集長を退任すると発表したウィンター。メットガラの行く末を想像しながら観ると、より楽しめるのではないでしょうか。

セントラルパークを舞台にした映画やドラマは、まだまだたくさんあります。涼しい秋は、散歩をしながら自然を感じたくなる季節。セントラルパークを舞台とした映画を観て、ニューヨークの空気を疑似体験するのも一興です。


『恋人たちの予感』
監督:ロブ・ライナー 1989年製作 / 96分 / アメリカ
「恋愛感情無しに男女の友情は成立するのか?」をテーマにしたロマンティックコメディ。『めぐり合えたら』『ユー・ガット・メール』で知られる脚本家ノーラ・エフロンと、女優メグ・ライアンの最初のコラボ作品。

『クレイマー、クレイマー』
監督:ロバート・ペントン 1979年製作 / 105分 / アメリカ
離婚裁判を題材に、新しい家族の形を問う名作。産後の女性の社会復帰や、父親の育児介入など、現代にも通じる問題をユーモアを交えて描き、1979年度アカデミー最優秀作品賞、主演のダスティン・ホフマンが最優秀主演男優賞を受賞した。

『マラソンマン』
監督:ジョン・シュレシンジャー 1976年製作 / 125分 / アメリカ
ナチス残党による冷酷な犯罪を描いたスリラー映画。ミステリーとアクションを融合した、手に汗握る展開が見もの。悪役を演じた名優ローレンス・オリヴィエが主演ダスティン・ホフマンに演技のアドバイスをしたエピソードは、今でも語り草となっている。

『メットガラ ドレスをまとった美術館』
監督:アンドリュー・ロッシ 2016年製作 / 91分 / アメリカ
毎年5月にメトロポリタン美術館で開催されるイベント「メットガラ」を追ったドキュメンタリー。2015年の企画展「鏡の中の中国」を中心に、イベントの準備や運営を学ぶことができる。世界の有数ファッションデザイナーのインタビューも必見。

この記事を書いた人
はるこ

神奈川県出身。短編映画を国内外で制作しています。最新作「Ramen Symphony」は現在、映画祭にエントリー中。好きな映画のジャンルは旧作、時代物、ヒューマン系など。最近はドキュメンタリーにもハマっています。

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