Ep.8 ハードルは意外と低め 映画祭へ行ってみよう!|ニューヨーク映画案内

ニューヨーク映画案内

皆さんは、映画祭へ行ったことがあるでしょうか。チケットの取り方は?どの作品を選べば良い?そもそも、映画関係者じゃなくても行って良いの?など、疑問が多くて足が遠のいている方も多いかもしれません。

ニューヨークはその土地柄ゆえ、様々な映画祭が一年を通して開催されています。規模もテーマもそれぞれなこれらの映画祭は、もちろん一般にも開放されています。むしろ、変わり映えしない上映ラインナップに飽きてしまった方に、映画祭はかなりおすすめ。普段なじみのない作品に出会えるきっかけにもなるのです。今回は私の経験を通して、ニューヨークの映画祭をご紹介します。

まずは、大ボスのニューヨーク映画祭。リンカーンセンターで毎秋開催されるこの映画祭は、トライベッカ映画祭と並び、ニューヨーク最大の映画イベントです。著名な映画監督の最新作が先行上映される場として有名で、今年のラインナップはルカ・グァダニーノ監督の『After The Hunt』、ジム・ジャームッシュ監督の『Father Mother Brother Sister』、キャサリン・ビグロー監督の『A House of Dynamite』など。

まず先行販売されるのは、パスと言われるセット売りのチケット。$350で6作鑑賞できるものから、オープニングとクロージングナイトの招待券や特別ラウンジへのアクセスなどが盛り込まれた$16,500(!)のGOLDパスまで、値段と特典は様々(2025年8月12日現在)。そして上映スケジュールが決まると、一作ごとの鑑賞チケットが販売されます。しかし、当然ながら注目作は競争率が高め。特に、監督やキャストのトーク付き上映は即完売してしまうことも。

では、チケットを取り損ねた人たちは諦めるしかないのでしょうか?2022年の秋、私はルカ・グァダニーノ監督の最新作『ボーンズアンドオール』を観ようと考えていましたが、トーク付き上映はすでに完売。そこで、直前のキャンセルチケットを狙って、当日会場で並んでみることにしてみました。

開場4時間前にリンカーンセンターに到着すると、すでに並んでいる人たちが数人。私も後に続くと、みるみるうちに列は延びていきました。さて、この場合みんなが狙っているのはキャンセルチケットや、「スタンドバイ」と言われる上映直前に売り出されるチケット。多くの映画祭の場合、この方法で鑑賞できるチャンスはかなり高いです(もちろん、確実な方法ではありません)。

チラシを配る人や、映画祭スタッフがS N S用に動画を撮る中、4時間辛抱強く待ち続けます。誰か会場から出てくる度に、「チケットが得られるのでは?」と期待が高まります。いよいよ開場30分を切った頃、満を辞してニューヨーク映画祭の代表が登場。「いつから並んでいるんだい?」とみんなに声をかけて、「映画祭用の特別席を最初の5人にプレゼントしよう」と言い出しました。

喜びも束の間、なんと5人は私の手前の人まで。落胆して引き続き並んでいると、今度は年配の女性が声をかけてきました。「とりあえず取ったんだけど、行けなくなっちゃったの。これ欲しい?」と、チケットを譲ってくれたのです!実は、これはニューヨークのイベントなどではよくあること。結局、無料で『ボーンズアンドオール』を鑑賞、グァダニーノ監督、テイラー・ラッセルとクロエ・セヴィニーの上映後トークも大いに盛り上がりました。

でも、そんなに長く並べないし、結局観れないこともあるんでしょ?と思う方もいるかもしれません。そんな方には、もう少しハードルの低い映画祭はいかがでしょうか?

ジャパン・カッツは毎年夏に開催される邦画の映画祭です。ミッドタウンに位置する日本文化を広めるための施設、ジャパン・ソサイエティーで開催され、日本で話題の新作や長く愛されている名作が上映されます。

2025年のラインナップは、『侍タイムスリッパー』、『ゆきてかへらぬ』、『ぼくのお日さま』、そして岩井俊二監督の1995年の名作『Love Letter』など。話題作は完売になることもありますが、比較的チケットの取りやすい映画祭です。

日本から監督やキャストが訪米することもあり、ニューヨーク在住の邦画ファンには嬉しいイベントです。私は、この映画祭で『テラスにて』や、鈴木清順監督の名作『ツィゴイネルワイゼン』を鑑賞しました。他にも、注目のアジア映画をいち早く観たい方には、ニューヨーク・アジアン映画祭もおすすめです。

次は、もっとマイナーな作品をお探しの方に。前述の通り、ニューヨークは映画祭の数が豊富です。そうなると、どの映画祭に行けば良いか迷うもの。そんな時は、ジャンルで選んでみるのはいかがでしょうか。

ドキュメンタリーに興味のある方は、DOC NYCがおすすめ。アメリカ最大のドキュメンタリー映画の祭典で、I F CセンターやS V Aシアターなど、グリニッジ・ビレッジを中心に数館に分かれて上映されます。私は2023年に、DOC NYCで『ジェリーの災難』を鑑賞しました。とても興味深いと感じたところ、やはり話題を呼び、今年の初めに日本でも公開されました。このように、良作をいち早く探し当てられる喜びも映画祭ならでは。

他にも、LGBTQ+をテーマにした作品を扱うNewFest、ホラー映画を扱うBrooklyn Horror Film Festival、実験的映画を扱うNew York Underground Film Festivalなど、とにかくたくさんのジャンルがあるので、あなたの好みに合う映画祭がきっと見つかるはず。

そして、私が一番おすすめしたい映画祭の鑑賞方法は、短編映画上映です。と言うのも、短編映画は通常5〜6本セットで上映されることが多く、長編一本を一か八かで選ぶよりも、面白い作品に出会う確率が上がるから。また、その多くが5〜15分ほどの尺なので、6本見ても1時間半程度のことが多く、時間をかけずにより多くの作品が楽しめるお得感もあります。

私の訪れた映画祭で良かったのは、Imagine This Women’s Film Festival。こちらは女性監督や、女性問題を扱った作品を中心にラインナップが組まれています。フィクションはもちろん、アニメーションからドキュメンタリーまで良作が揃っており、6本続けて観ても飽きることがありませんでした。2023年には、有難いことに私の短編映画も選出していただきました。

何より、映画祭の良いところは、制作した監督、スタッフ、キャストらが会場にいる可能性が高いこと。特に小さな映画祭では、気軽に話しかけることもできます(もちろん、気恥ずかしい場合はそのまま退場しても大丈夫)。もしお気に入りの一本を見つけたら、その監督の作歴を遡ったり、今後の活動を追うこともできます。また、映画祭によっては、好きな作品に投票できるシステムがあり、得票数の多かった作品が観客賞を受賞することも。まさに、あなたも映画祭の審査員気分を体験できるのです!

どうだったでしょうか。少し映画祭に行くハードルは下がりましたか?映画祭は、映画を作る人たちと観る人たちを繋ぐ重要なイベント。あなたの払ったチケット代が、その映画祭の今後の運営を支えている、と言っても過言ではありません。映画という文化をこれからも残していくためにも、いつもの映画鑑賞の選択肢に映画祭を加えてみるのはいかがでしょうか。


ニューヨーク映画祭(英語):https://www.filmlinc.org/nyff/
トライベッカ映画祭(英語):https://tribecafilm.com/
ジャパン・カッツ(英語):https://japansociety.org/film/japancuts/
ニューヨーク・アジアン映画祭(英語):https://www.nyaff.org/
DOC NYC(英語):https://www.docnyc.net/
Imagine This Women’s Film Festival(英語):https://www.imaginethiswomensfilmfestival.org/

この記事を書いた人
はるこ

神奈川県出身。短編映画を国内外で制作しています。最新作「Ramen Symphony」は現在、映画祭にエントリー中。好きな映画のジャンルは旧作、時代物、ヒューマン系など。最近はドキュメンタリーにもハマっています。

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