前半の記事はこちら 【前編】ノー・ウェイヴカルチャーから生まれた映画『ヴァラエティ』
ヴァラエティは女性の性の解放がテーマとなっている
物語は、主人公クリスティーン(サンディ・マクロード)がセクハラを受けたことを友人に愚痴る場面から始まります。その後、彼女はポルノ映画館のチケット売りとして働き始め、男性から性的な視線を向けられる機会が増えていきます。
普通ならそうした状況に嫌悪感を抱くと思うのですが、クリスティーンはそれとは逆に徐々にその世界に惹き込まれていきます。やがて、常連の男性客を逆にストーキングするようになり、「女性はただ“見られる存在”である」というテーマを超えて、「見る存在」として描かれるようになります。この視点の転換によって、女性の主体性が強調され、性別や社会的テーマを新たに問い直す作品として深みを持たせていました。
クリスティーンがバーで働く友人ナン(ナン・ゴールディン)や他の友人たちと性体験について語り合うシーンや、彼女が官能的なストーリーを語る場面(短編『エニバディズ・ウーマン』にも登場するもの)など、このテーマは作品の至るところに散りばめられています。
さらに、この映画の脚本を担当した実験的小説家キャシー・アッカーは、女性の性の解放(セックス・ポジティブ・フェミニズム)を掲げた思想家であり、自身がバイセクシャルであることも公言していました。その背景を考えると、彼女はこの作品にぴったりの脚本家だったのだろうと感じます。
女性の性の解放について考える
私は女性でありながら、あまり「フェミニズム」について深く考える機会がなかったように思います。「男女平等」や「女性の権利」について触れられた映画で考えさせられることはあったり、昔の映画から感じる「男尊女卑」に嫌悪感を抱くことなどはありましたが、「女性の性の解放」についてはあまり考えたことがありませんでした。女性にも性欲があり、性的な話をしたり、性的なものに興味を抱くことについての権利について、考えたことがなかったのが正直なところです。
そのようなことを意識せずに生活できているのは、ある意味ゴードン監督のような方の活動のおかげだと感じました。このような感想はバーバラ・ローデン監督の「WANDA/ワンダ」(1971年)を見たときにも感じたことでした。このような日常生活では体験できないことや、考えないことについて考えるきっかけをくれる映画は、やはりとてもおもしろいと感じます。
(※フェミニズムを扱った作品を観たい方は、ぜひ「WANDA/ワンダ」もご覧ください!「ヴァラエティ」とはまた異なった視点でフェミニズムを描いており、参考になると思います。)
ゴードン監督の映画をもっと観たい!
『ヴァラエティ』の公式サイトによると、ゴードン監督は現在コロンビア大学芸術学部映画学科で教鞭を取っているとのことです。長編映画がこの『ヴァラエティ』のみというのは、とても残念です。この機会に、彼女が再度作品を制作してくれないかなと密かに期待しています。
ベット・ゴードン エンプティニューヨーク
2024年11月16日(土)〜 シアター・イメージフォーラムにて上映中!詳細は公式サイトで!
公式サイト:https://punkte00.com/gordon-newyork/
ヴァラエティ(VARIETY)
原題:VARIETY/1983年/米国/カラー/100分/ヨーロピアン・ビスタ/
日本語字幕:西山敦子(C.I.P.Books)
ベット・ゴードン監督による前衛的な作品で、ニューヨークのポルノ映画館で働き始めた女性クリスティーンが、観察する側とされる側の境界を越えていく物語です。視線の転換をテーマに、女性の主体性や性別の問題を問い直す内容は挑戦的で鋭い視点が光ります。ジム・ジャームッシュ作品にも関わるジョン・ルーリーの音楽やトム・ディチロの映像美が、ニューヨークの退廃的な魅力を引き立てています。ノー・ウェーブムーブメントの象徴的な一作です。
こちらもおすすめ!
WANDA/ワンダ
監督・脚本・主演:バーバラ・ローデン
監督自ら脚本・主演を務めた1970年の作品で、女性の内面を鋭く描いたアメリカン・インディペンデント映画の傑作です。ペンシルベニア州の炭鉱町を舞台に、生活に行き詰まり、家族を離れてさまよう主人公ワンダの孤独な旅路が淡々と描かれます。ミニマルな映像とドキュメンタリータッチの演出が、彼女の空虚感や社会からの疎外感をリアルに伝えます。ローデン自身の人生とも重なるテーマが評価され、現在では女性映画監督による先駆的な作品として再評価されています。
配信:Amazonプライム・ビデオ、Hulu
[…] 後編ではヴァラエティのテーマであるフェミニズムについて触れたいと思います!後編の記事はこちら […]