【前編】ノー・ウェイヴカルチャーから生まれた映画『ヴァラエティ』|私と映画

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ベット・ゴードンという監督をご存じでしょうか。私はこれまで全く知りませんでした。「ベット・ゴードン エンプティニューヨーク」という特集上映で、長編映画『ヴァラエティ』と、その下地となった短編2本『エンプティ・スーツケース』(1980年)、『エニバディズ・ウーマン』(1981年)が上映されると知り、観に行ってきました!今年(2024年)観た映画の中でも1、2位を争う傑作だと感じたので、ぜひご紹介させてください。

『ヴァラエティ』は、ジム・ジャームッシュ監督の『ダウン・バイ・ロー』で音楽を担当したジョン・ルーリーが音楽を手掛けており、『ダウン・バイ・ロー』のサントラのB面に本作の音楽が収録されているという興味深い背景があります。さらに、同じくジャームッシュ監督作品の撮影を手掛けたトム・ディチロが撮影監督を務めているなど、映像面でも非常に気になる要素が満載。それに加えて、ビジュアルがとてもスタイリッシュ!ストーリーは、ポルノ映画館の受付をする女性を主人公にした少し変わった設定で、観る前から期待感を煽られました。

短編2作は、実験的な構成で、多くのシーンをつなぎ合わせて作られた作品でした。写真家ナン・ゴールディンや映画作家ヴィヴィアン・ディックが出演しており、そのビジュアルは斬新で、まさに「アート」と言える仕上がり。ハッとするシーンの連続で、どこを切り取っても絵になる美しさでした。また、2作ともポルノ映画館のチケット売り場という設定や、会話の内容などが共通しており、これらの短編が『ヴァラエティ』という長編映画へと発展していったプロセスが垣間見え、とても興味深かったです。

『エニバディズ・ウーマン』(1981年)

『エンプティ・スーツケース』(1980年)

美しいビジュアルの連続

タイムズスクエアのネオンが美しく輝き、一瞬で引き込まれるような魅力的な映像が詰まった作品です。ファッションも洗練されていて、時代を感じさせないおしゃれさがあり、都会的でクールな雰囲気が溢れています。

どのシーンを切り取ってもアーティスティックで目を奪われるものばかり。まるで美しいショットをつなぎ合わせて構成された長編アート作品のような印象を受けました。

素晴らしいセンスが凝縮された映画を生み出したベット・ゴードン監督の才能に感銘を受け、このセンスがどのように生まれたのか、断片的にでも良いので知りたくなり、ニューヨークのカルチャー「ノー・ウェーブ」について調べてみました。

「ノー・ウェーブ」は、1970年代後半から1980年代初頭にかけてニューヨークで発展した前衛的なアートムーブメントのひとつです。映画、音楽、ファッション、パフォーマンスアートなど、多岐にわたるジャンルで活動したアーティストたちが、既存のジャンルにとらわれない自由な創作を追求しました。特に、低予算で制作された映画には、荒削りながらも挑戦的で個性的な作風が特徴的です。このムーブメントは、既存の価値観への反抗や独自の表現を求めるアーティストたちの拠点ともいえるものでした。

『ヴァラエティー』も、そんなノー・ウェーブというカルチャーの中から生まれた映画のひとつ。タイムズスクエアの喧騒やネオンが映り込むスタイリッシュな映像、女性の性の解放という挑戦的なテーマは、このムーブメントのエネルギーを反映しているのではないか、そう考えたりしました。

後編ではヴァラエティのテーマであるフェミニズムについて触れたいと思います!
後編の記事はこちら

ベット・ゴードン エンプティニューヨーク

2024年11月16日(土)〜 シアター・イメージフォーラムにて上映中!詳細は公式サイトで!
公式サイト:https://punkte00.com/gordon-newyork/

配給:プンクテ合同会社

ヴァラエティ(VARIETY)

原題:VARIETY/1983年/米国/カラー/100分/ヨーロピアン・ビスタ/
日本語字幕:西山敦子(C.I.P.Books)

ベット・ゴードン監督による前衛的な作品で、ニューヨークのポルノ映画館で働き始めた女性クリスティーンが、観察する側とされる側の境界を越えていく物語です。視線の転換をテーマに、女性の主体性や性別の問題を問い直す内容は挑戦的で鋭い視点が光ります。ジム・ジャームッシュ作品にも関わるジョン・ルーリーの音楽やトム・ディチロの映像美が、ニューヨークの退廃的な魅力を引き立てています。ノー・ウェーブムーブメントの象徴的な一作です。

エンプティ・スーツケース(Empty Suitcases)

原題:Empty Suitcases/1980年/米国/カラー/52分/スタンダード/

職場のあるシカゴと恋人がいるニューヨーク。2つの都市を行き来する女性が抱える疎外感と孤立感が考察される実験的で闘争的な作品。国際映画祭などで上映され高い評価を得た。

エニバディズ・ウーマン(Anybody’s Woman)

原題:Anybody’s Woman/1981年/米国/カラー/24分/スタンダード/

長編『ヴァラエティ』に先駆けて、ニューヨークのポルノ映画館「Variety」を舞台に作られた短編作品。タイトルは、サイレント期から活躍した女性映画監督ドロシー・アーズナーによる1930年製作の同名のハリウッド映画作品に由来する。

関連情報

ダウン・バイ・ロー‾オリジナル・サウンドトラック/John Lurie

ヴァラエティのサウンドトラックはジム・ジャームッシュ監督の「ダウン・バイ・ロー」のサントラのB面に収録されています。
Apple Musicで聴く

この記事を書いた人
ミドリ
カシミヤフィルム 代表

映画とミニシアターが好きなおばちゃんです。 好きな監督はヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ、ジャン=リュック・ゴダールなど。ヒューマンドラマ、音楽が素敵な映画が好物です。 その他、海外旅行、喫茶店巡り、猫、音楽が好き

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