「わたしの頭はいつもうるさい」監督:宮森玲実

わたしの頭はいつもうるさい

ある日、私のところに、カシミヤフィルムのオープンチャットのメンバーである、宮森玲実さんから1通のメールが届きました。

「初監督作品がテアトル新宿(5/16〜5/22)と テアトル梅田(6/23 一日限定)で上映されるのでカシミヤフィルムで紹介していただけないでしょうか?」とのこと。

オンライン試写で作品を拝見しまして、カシミヤフィルムのオプチャのメンバーさん、ということを差し引いて、シンプルに面白い映画をお作りになるなと思いました。これは同年代の夢を持っている方にはとっても共感できる内容なのではと。私は主人公ののぞみよりも随分と先輩になってしまったけど、過去にのぞみだったときが確実にありました。

ちょっとおこがましいですが、のぞみの先輩として、現役ののぞみになにか協力できないかと思いまして、カシミヤフィルムではこの映画を全力で応援することにしました。

カシミヤフィルムの編集部の皆さんにも試写をしていただき、感想を集めました。読んでいただければわかると思いますが、とっても良い映画です。のぞみの気持ちが分かる人、多いと思います。普遍的な若者の悩みです。

皆さんの感想

まさに今、自分が観るべき映画だと思いました。
自分の本当にしたいことは何なのか?周りの友達は子育てに奮闘している。はたまた仕事で着実にステップアップしている。自分はどうすればいいんだろう。本当にこのままでいいのだろうか。30歳を目前に、そんな言葉が頭を巡ります。
将来成功してやる。ずっと密かにそう思い続けて結局何にもなれていない。
成し遂げたいと思いつつも日常の小さな誘惑に勝てない情けない自分と、「あなたなら何でもできる」と声をかけてくれる周りの人たち。家族にそっけなくしてしまった記憶。何だか、リアルでした。
結局、主人公のぞみと同じく私には何にもない。でも、「まだ」何にもない。そう思えた映画でした。
夢を現実にするには、見つけてもらえるまで走り続けないといけない。
誰も私を映画に出してくれないから自分で撮るしかなかった、という監督脚本主演を務めた宮森さんの言葉が主人公のぞみが全力で走り続けるシーンと重なりました。
「棚から牡丹餅って、過去に自分が置いた牡丹餅が忘れた頃に落ちてくることだと思っている」
いつだったか、SNSでこんな言葉を見かけました。
頑張っていたら、思いがけず違う道も開けるかもしれない。
何かを続けることを悩んでいる、何かを諦めそうな人に是非観て欲しい作品です。

ふせ こに/イラストレーター(Instagram


18歳の僕、聞いてるか。応答せよ。

シームレスにつながり合う過去と現在が、7年という空白を際立たせる。
18歳の自分に撮られている25歳の自分は、やるせなさと罪悪感だけがカメラ越しの表情から見えてきた。

僕も25という歳になって自分の人生の答え合わせを毎日のように自問自答している。いつもうるさい。本当にいつもうるさい。
この道でよかったのだろうか、もう何もかも遅いのではないか。そんな不安が隣にいる。

しかし、終盤の疾走で心が軽くなった。僕も走り出したくなった。

北野武監督の『キッズ・リターン』のラストのセリフ、「俺たち、もう終わっちゃったのかな?」「バカヤロー! まだ始まっちゃいねえよ」を思い出す。

25歳。まだ何も始まってない。ここから走り出す物語もある。

kawamitsu/ライター(Instagram Podcast Filmarks)


今、18歳の自分と対峙したら、情けないやら恥ずかしいやらでいたたまれないなあ。
でも、そんな18歳の自分が日々積み重ねてきた生き方で今の自分が出来上がっている、というパラドックス。
そんなことを考えさせられた映画でした。

母親の包容力や、友人の励ましの有り難みって、歳を重ねるからこそ沁みてくるんですよね。
「わたしには何もない」って感じても、実は『経験』という何事にも代え難いものがちゃんとあると思うんです。派手な経験ばかりが注目されがちだけど、地味で苦い経験の方が実は大事で。そんな経験を得てこそ、世の中や、側にいてくれる人のことをより理解する視点を持てるようになるのではないでしょうか。

「わたしなら情熱でなんでもできる」という根拠のない自信を持った頭でっかちの18歳の自分。そこから年月を経て『何者でもない自分』を認めることで、初めて人としての深みが出てくるのだと思うし、それをきちんと考察し、ストーリーとして完成させた宮森監督は見事です。頭の中にうるさい自分を抱えてる方も、かつて抱えていた方も、必見の一作です。

ふじもと はるこ/映画監督(Instagram 公式サイト


印象的なセリフがある。「古川のぞみ。25歳。わたしにはまだ、なんにもない」というセリフだ。
ポジティブな叫びだと思った。耳を塞がずに、全身でこの叫びを浴びたいと思った。これから、その空白を埋めてゆける気がしたからだ。それに、なんにもないことは、すべて持っていることの裏返しだと思ったからだ。

のぞみはそのまま走り続ける。そう、わたしたちにできることは、走ることしかないのだ。
「お前ならやれるよ」。そうかもね。そうじゃないかもね。
「人生は選択の連続だ」。分かってる。だからなんなんだ。
「応答セヨ」。応答などない。

何が正解か。選んだ道は正しかったのか。生まれてきた意味はなんなのか。そんなの分からない。そんなの知ったこっちゃない。ただ叫びながら、走り続けるしかないのだ。
わたしはわたしを辞めることができない。だから、過去のわたしも、現在のわたしも、未来のわたしも、すべて愛そうじゃないか。18歳のわたしに叱られたっていい。未来のわたしが泣いていたっていい。ただ、どんなわたしも思い切り愛してあげたいと思う。

願わくば、この映画を見た人と、場所は違えど一緒に走り続けたいと思う。

piiiyaaa/ライター( X note


人は誰でも独り言を言います。 この物語の古川のぞみは、劇中常に自分に話しかけています。その独り言は時空をも超えて、18歳ののぞみが25歳に話しかけたり、かけられたりと、とても忙しい独り言映画です。
時空を超えて未来や過去の自分に会うSF映画はよくありますが、本作はその類ではありません。
おやっ?これはもしや第三ののぞみが居るのではないかなっと思いながら観ていました。 本作の監督・脚本・主演をしている宮森玲実さんのインタビュー記事を読んで、18歳ののぞみも25歳ののぞみもそれぞれもう1人ののぞみ、つまり宮森玲実さんに語っているのではないかと思いました。
宮森さんは、「生きている中で通り過ぎてしまった時間瞬間に光が当たるような作品になればと思い作りました。」と語っています。 未来も現在過去も遠い遠い過去もみんな自分なのです。映画を撮ることで1人ののぞみ(宮森さん)が繋がっていく確かな実感を得たかったのかもしれませんね。 饒舌なのぞみ同士、のぞみと友達との会話に対して、ラストののぞみと藤田朋子さん演じる母親との縁側での静かな会話は実に対照的でした。静かで言葉少なくても愛情たっぷり満たさせています。言葉と言葉の間さえも豊かさを感じてしまう。見事なエンディングでした。

ひでGFilmarks


この映画を見てまさか自分が自分の過去の向き合う事になるとは思ってもいなかった。

誰しも大きな夢や目標に向かって突き進む時期があるだろう。ダメで元々やるだけやろうという気持ちで挑戦し、たとえ失敗したとしても失う物も無いし悔いの残らないようにと思っていたはずなのに…いざ自分に世の中そんなに甘くないと言う現実を突き付けられると、どうしても受け入れられない自分がいる。諦められない自分がいる。のぞみ自問自答する。18歳の、のぞみはとても自由にそして躍動感溢れる言葉で25歳の自分に問いかける。のぞみの叫びはとても音楽的で、まるで歌かのようにリズムに乗って。その問いの答えは自分が1番分かっている。のぞみの声に耳を傾けると、一瞬心地よく感じたと思ったら、18歳の自分に突然心をグサグサとえぐられた。

気づけば自分も自問自答していた。あの時、精一杯やったのか?楽な方に流されてただろ?まだやれる事あっただろ!なぜもっと一生懸命にならなかったのか?命削ったのか?
新しい事を始めるのに遅いということはない。過去は過去。明日から、今頑張ってる事を楽しみながら一生懸命取り組もうと思える素敵な作品でした。

(映画大好き神谷さん/映画系YouTuber

作品紹介

『わたしの頭はいつもうるさい』
監督:宮森玲実 2024年製作/76分/日本

思い描いたような人生が送れず将来に対する漫然とした不安や焦燥感を抱くなど、人生の1/4が過ぎた20代後半から30代が陥りがちな心理状態である「クォーターライフクライシス」をテーマに描いた作品。監督の宮森玲実が主演も務め、インディーズ映画の登竜門である第18回田辺・弁慶映画祭で俳優賞を受賞した。

小説家を目指して上京したものの、泣かず飛ばずな25歳の女性のぞみ。彼女の頭の中では、田舎暮らしの高校生18歳のノゾミが、ちゃんと有言実行したか、東京でとひと花さかせたかと問いかけてくる。変わりたいのに変われないもどかしい人生に抗いながら、18歳の自分と対峙する25歳ののぞみは、それまで向き合うことのなかったさまざまな事柄に気がついていく。

日本大学芸術学部映画学科を卒業し、コロナ禍の頃から映画制作を開始したばかりの宮森玲実の初監督作品で、監督、脚本、プロデューサーのほか主演も自ら務めた。

映画.comより引用

公開情報

5/16〜5/22 テアトル新宿
6/23 テアトル梅田


この記事を書いた人
ミドリ
カシミヤフィルム 代表

映画とミニシアターが好きなおばちゃんです。 好きな監督はヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ、ジャン=リュック・ゴダールなど。ヒューマンドラマ、音楽が素敵な映画が好物です。 その他、海外旅行、喫茶店巡り、猫、音楽が好き

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