一番近くにいる存在なのに、ときに煩わしく感じる。いつの時代も、それが家族というものなのかもしれません。『東京家族』は、小津安二郎監督の名作『東京物語』のリメイク版。「老夫婦が東京で暮らす子どもたちに会うために広島から上京する。しかし、子どもたちは仕事の忙しさを理由に、両親である2人をもてなす時間をつくろうとはしない」という物語の設定は、そのまま『東京家族』に受け継がれています。
2人を気遣ってくれるのは戦死した次男の妻・紀子だけ。リメイク版でこの役回りを担うのは、幸一(長男)の妻・文子と、昌次(次男)の恋人・憲子です。昌次は、長男と長女の滋子とは違い、不安定な仕事に就いているため、両親である老夫婦からことさら心配されていました。昌次自身も、子どもの頃から「父親には理解してもらえない」という不満を抱えており、向き合って話し合おうとはしません。昌次と父の間を取り持ってきた母・とみこ。彼女の息子に対する心境は、昌次の恋人・憲子との出会いを通して変わっていきます。
兄の幸一と姉の滋子から半ば押し付けられるかたちで、両親に東京を案内することになった末っ子の昌次。とみこの他界を悲しんでいるかと思いきや、形見に母の着物が欲しいと言い出す滋子。このような兄姉弟の関係性にも注目してみると、この作品で描かれている家族がより身近に感じられるはずです。
リメイク版で印象的だったのは、昌次と憲子が知り合ったきっかけが、3.11の大震災直後のボランティアだったこと。そして、滋子の夫・庫造が、仕事の合間を縫って妻の美容院を手伝うなど、現代的な夫として描かれていたことです。『東京家族』には、大戦後に製作されたオリジナル版をベースに今の時代が反映され、共感できる要素が多く盛り込まれています。
家族も家も持ち、仕事にも恵まれ安定した生活を送ることができている。これ以上の幸せがあるだろうか?と思いつつも、心のどこかでは虚しさを感じる。そんな『Shall We Dance?』の主人公ジョンは、通勤電車の内から偶然目にしたダンス教室の窓辺に佇む女性が気になり、社交ダンス教室に足を運びます。そこで待っていたのは、無表情でダンスを教える訳ありのポリーナ、レッスンの合間に隠れて飲酒するベテランの女性講師ミッツィー、個性的なレッスン生たち。窓辺に佇んでいたあの女性(ポリーナ)が気になっていただけなのに、ジョンはどんどん社交ダンスにはまっていきます。やがて、彼とレッスン生たちが大会に出場することになると、ポリーナは過去の失敗を乗り越え、ミッツィーもダンス講師として本領を発揮し始めます。ジョンも本腰を入れ、かつて感じていた「虚しさ」を忘れてしまうほどレッスンにのめり込むように。そんな夫ジョンの行動を不審に思った妻ビヴァリーは、探偵に彼を尾行させるのですが…。
ジョンが胸の内を打ち明ける言葉にはハッとさせられます。「幸せな結婚生活があることが、自分にとっての一番の誇りだけれど、それ以上の幸せを求めていると言えば、妻が傷つくだろうと思って、ダンスを習っていることを言えなかった」。これは、ジョンの妻に対する優しさゆえ。家族の幸せと同時に個人の幸せを追求しようとするときに、抱えてしまう葛藤ともいえそうです。
オリジナルの『Shall We ダンス?』も本作も、「家族に内緒で趣味に勤しむ父」の姿を追いかけながら、家族との関係性や社交ダンスの世界が浮き彫りにされていきます。オリジナルの登場人物とほぼ同じキャラクター設定でキャスティングされている点も、リメイク版の見どころのひとつです。
「結婚」といえば、近年では籍だけ入れるケースが増えているようです。とはいえ、結婚は相手の家族も関わってくるため、子が入籍するとなれば、親にとっても一大イベント。特に娘を持つ父親にとって、そのときの心境はより複雑なはず。『花嫁のパパ』であるジョージも、まさにその一人。披露宴を終え、一人娘を新婚旅行に送り出した後、彼は散らかった部屋で今日までの日々を回想します。
ローマでの留学から帰ってきたと思いきや、「現地で出会った男性と結婚する」と娘のアニーが言い出したときから、嵐のような毎日が始まったのです。相手の男性の職業や家庭環境が気になり、何とか阻止できないものかと思いを巡らせるも、自分の気持ちとは裏腹に、結婚式に向けての準備はどんどん進められていく。(当時の米国の教会式では)式も披露宴も花嫁の父が取り持つ習わしのため、さらに頭を抱える事態に。増え続ける予算や招待客の数。さらに、式当日を迎える直前にはアニーが破談したいと言い出す事態に。無事に教会での式を終え、自宅に移動して披露宴を開いても、ジョージはアニーに祝いの言葉をかけられないまま、彼女を新婚旅行に送り出してしまったのでした。
とはいえ、結婚の準備が進められていくうちに、父親としての複雑な心境が少しずつ変わっていったのも事実。この作品は、父親の奮闘記ともいえます。
披露宴の準備にウェディング・コーディネーターを手配する件は、いかにも現代版といったところ。オリジナルで娘のケイが新婚旅行先を理由に破談にしたいと言い出すシーンは、リメイク版ではアニーがブライアンから贈られたプレゼントに「専業主婦になれという意味か」と勘違いして怒り出すシーンに変更されており、現代の働く女性なら共感できるはずです。
作品紹介
『東京家族』
監督:山田洋次 2012年製作 / 146分 / 日本
小津安二郎監督作品『東京家族』(1953年)の現代版。平山周吉ととみこは、瀬戸内海の小さな島から子どもたちに会うために上京する。開業医を営む長男・幸一の家で、美容師の長女・滋子、舞台美術の仕事に携わる次男・昌次とも再会。幸一の妻・文子が気遣うなか、子どもたちはそれぞれに忙しく、一緒に過ごす時間もままならない。老夫婦と子どもたちの姿を通じて、大切なはずなのにときに疎ましく思う家族の絆を見つめ直す。
『東京物語』
監督:小津安二郎 1953年製作 / 135分 / 日本
老夫婦・周吉ととみは、東京で働く子どもたちを訪ねるために、尾道から上京する。しかし、医者の長男・幸一も美容院を営む長女・志げもそれぞれに忙しく、両親をもてなす時間が持てない。気遣ってくれるのは、戦死した次男の妻・紀子だけだった。肉親なのに心の距離は遠く、血の繋がりのない他人ほど温かく接してくれる。老夫婦と都会で現代的な生活を送る子どもたちとの姿を通し、戦後の日本における家族関係の変化を描く。
『Shall We Dance?』
監督:ピーター・チェルソム 2004年製作 / 106分 / アメリカ
周防正行監督作品『Sall We ダンス?』(1996年)のハリウッド・リメイク版。遺言書作成専門の弁護士ジョンは、職場にも家族にも恵まれ、何不自由のない暮らしを送っていたが、単調な毎日に虚しさを感じていた。ある日、通勤電車の中から外を眺めていると、社交ダンス教室の窓辺に佇む女性ポリーナの姿が目に留まる。彼は衝動的に電車を降り、ダンス教室に向かう。次第にダンスに夢中になるが、家族には打ち明けられないのだった。
https://www.imdb.com/title/tt0358135/?ref_=ext_shr_lnk
『Shall We ダンス?』
監督:周防正行 1996年製作 / 136分 / 日本
周防正行監督によるハートフル・コメディ。杉山正平は、家族も新築の家も手に入れ、幸せなサラリーマン生活を送っていた。しかし、同時に単調な毎日に虚しさを感じていた。そんなある日、通勤電車の中から、ダンス教室の窓辺に佇む女性・岸川舞に目が留まる。数日後、思い切って途中下車し、ダンス教室へ向かう。杉山は、訳ありのダンス講師・舞や個性的なレッスン生たちとの交流を通して、次第に社交ダンスに夢中になっていく。
『花嫁のパパ』
監督:チャールズ・シャイア 1991年製作 / 105分 / アメリカ
靴メーカーを営むジョージは、娘の結婚披露宴を終えた今日までの日々を振り返る。娘アニーがローマでの留学から戻ってくるなり、現地で知り合った男性と結婚すると言い出した。ジョージの複雑な心境をよそに、結婚に向けての準備は着実に進められていく。自宅で披露宴を開催することになり、コーディネーターのアドバイスに従ううちに、増え続ける予算にジョージは頭を抱えるのだった。『花嫁の父』(1950)のリメイク版。
https://www.imdb.com/title/tt0101862/?ref_=ext_shr_lnk
『花嫁の父』
監督:ヴィンセント・ミネリ 1950年製作 / 93分 / アメリカ
弁護士のスタンリーは、一人娘のケイを新婚旅行へと送り出したばかり。彼は先ほど終えた結婚披露宴に至るまでの日々を振り返る。彼女がバクリーという青年と結婚したいと言い出したときから、増え続ける結婚費用に頭を抱え、破談寸前のハプニングに見舞われるなど、怒涛の日々が続いていた。無事に教会での式を終えた後、自宅で披露宴を開催するも、招待客からの注文に追われ、娘に祝いの言葉を伝える間もなかったのだ。
https://www.imdb.com/title/tt0042451/?ref_=ext_shr_lnk
