意外なリメイク作品 ヒューマンドラマ編1|映画と現実は隣り合わせ

映画と現実は隣り合わせ

半世紀以上生きていると、意外な過去の作品がリメイクされていることに気づきます。「あの映画のリメイク版なのか!」ということで観たくなりますし、その逆もしかりです。

リメイク版を先に観てから「オリジナルを観たい」と思わせた代表的な作品は、イギリス版『生きる LIVING』(2022年)。主人公ウィリアムズ(ビル・ナイ)は公務員として仕事一筋に生きてきたとはいえ、自分の人生に虚しさを感じ始めていました。そんな折、医者から癌の罹患と余命宣告を受けるのです。「余生を充実させよう」と一時は海辺のリゾートでキャバレーや酒場巡りをするものの、元部下マーガレット(エイミー・ルー・ウッド)との再会を機に、これまで仕事中心の生活を送ってきた彼に残された選択肢は、やはり仕事しかないことに気づきます。

これまでの業務にやりがいを感じられていなければ、余命を宣告されたとて、同じ業務に尽力しようとは中々思えないでしょうが、彼は違いました。以前より地元の婦人会から要請のあった公園整備のプロジェクトを完了させた後、その公園で粉雪が舞い散る夜に一人きりでブランコに乗るシーンは胸に迫ります。特にこのシーンは、オリジナル版のカメラワークとの違いを見比べてみると、興味深いです(このシーンで主人公が歌う歌の違いにも着目したいのですが、それはまた別の機会に)。

「何かを達成しても、いつかは忘れられてしまうような、些細なことにすぎない。それでも、そのときの達成感や満足感を大切に生きよう」という、主人公の思いは日本版から受け継がれています。

日本版『生きる』(1952年)では、主人公を志村喬が、元部下を小田切みきが演じています。

オリジナルを観て気に入っていたので「観たい」と思わせた作品は『TOKYOタクシー』(2025年)。こちらは、『パリタクシー』(2022年)のリメイク版です。オリジナル版での、タクシー運転手のシャルル(ダニー・ブーン)と、依頼主である高齢女性のマーガレット(リーヌ・ルノー)は、日本版では高野すみれ(倍賞千恵子)と宇佐美浩二(木村拓哉)に置き替えられています。パリからその反対側までの道程は、東京・柴又から神奈川の葉山に。すみれからの依頼を受けて浩二がさまざまな場所へとタクシーを走らせるなか、彼女はマーガレットと同様に自らの過去を語り始めます。

マーガレットの場合は、パリをナチスから解放するためにやって来た米国の軍人が恋の相手となりますが、彼は彼女の妊娠を知らずに母国へ帰国。一方、すみれの恋の相手は在日朝鮮人で、朝鮮戦争の後、彼もやはり同様に北朝鮮祖国再建のために帰国してしまいます。

マーガレットとすみれの語りから分かるのは、第二次大戦後はフランスでも日本でも、「女性が配偶者からDVを受けても、それを離婚の理由にするのは難しかった」時代があったということ。パリと東京、マーガレットとすみれを通して、やや違いはあるものの、国境を越えた「その時代ならではの共通点」が見えてきます。女性の生き方にまつわる問題は現代でもまだ残っているとはいえ、先人たちの努力の甲斐あって、少しは進歩していることに現代の私たちは気づくのです。また、妻子ある身で、家族を支えるべく諸々の資金繰りに頭を悩ませている浩二の現状は、シャルルと同じです。パンデミックを経験した私たちにとっては近しく感じるはず。

両作品ともこの出会いによって彼らの現実が大きく変わるのですが、すみれの最期のシーンは特に山田監督ならではのこだわりが垣間見えます。

リメイク版があると知り、両作品とも観たいと思わせたのは、忠犬「ハチ公」のエピソードを元に映画化された作品。オリジナルは新藤兼人監督の『ハチ公物語』(1987年)、米国のリメイク版はラッセ・ハルストレム監督の『HACHI 約束の犬』(2009年)です。

「ハチ」が秋田犬であること、飼い主が教授であることや彼の家族構成については、両作品とも同じです。とはいえ、時代設定や主人公がハチを飼うことになったいきさつ、主人公の死後の家族の行動はやや異なります。前者の時代設定は事実を元に1924年から1934年にかけて、後者は1990年代後半から2000年代初頭にかけてで、より現代の物語に置き替えられています。

日本版では、主人公の上野教授(仲代達矢)が他界した後、ハチは上野家に出入りしていた庭師の菊三(長門裕之)の元に預けられます。しかし、彼の死によりハチは再び人間たちに翻弄されてしまうのです。それでもハチの中で一貫していたのは、飼い主であった上野教授との信頼関係です。この日本版では、ハチを通して人間たちのエゴが浮き彫りにされています。

米国版では、ウィリアム教授(リチャード・ギア)が飼い主となり、人間から見たハチの姿と、ハチの視点を通した人間の行動が交互に描かれています。そのため、こちらの作品では、教授亡き後も周囲の配慮をよそに、「同じ時間に駅前で待つ」日課を続けて「もう一度飼い主に会いたい」という願いを貫こうとするハチの心情が、より詳細に演技に引き出されています。日本版での居た堪れなさを米国版では晴らすかのような結末になっていて、心が救われます。

作品紹介

『生きる LIVING』
監督:オリバー・ハーマナス 2022年製作 / 102分 / イギリス
巨匠黒沢明の『生きる』(1952年)のリメイク版。舞台は第二次大戦後のロンドン。公務員のウィリアムズは、仕事一筋の人生に虚しさを感じていた。折しも医者から癌を宣告され、余生を充実させようと海辺のリゾートで羽目を外そうと試みるが、やはり心満たされずロンドンへ戻る。そこで再会した元部下に触発されて仕事に復帰し、驚くべき行動に出るのであった。

『生きる』
監督:黒沢明 1952年製作 / 143分 / 日本
三十年間無欠勤で仕事一筋で生きてきた市役所の市民課課長・渡辺(志村喬)は、ある日、自分が癌に罹患していることを告げられる。仕事を放棄し、街に出て羽目を外そうとするが、心は満たされない。元部下・小田切(小田切みき)との再会を機に心機一転、仕事に復帰し、驚くべき行動に出るのであった。

『TOKYOタクシー』
監督:山田洋次 2025年製作 / 103分 / 日本
フランス映画『パリタクシー』(2022年)のリメイク版。娘の高校進学を控え、その他諸々の資金繰りに頭を悩ませる個人タクシー運転手・宇佐美浩二の元に、85歳の高野すみれを東京・柴又から神奈川・葉山の施設まで送るという仕事が舞い込む。すみれが「東京の見納めに」「寄りたい」という場所を二人で巡るうち、彼女は自分の壮絶な過去を語り始めていた。

『パリタクシー』
監督:クリスチャン・カリオン 2022年製作 / 91分 / フランス
家庭を支えるべくタクシー運転手として働き詰めの毎日を送っているシャルル(ダニー・ブーン)の元に、高齢のマーガレット(リーヌ・ルノー)をパリの反対側の施設まで送るという依頼が舞い込む。寄り道を希望する彼女の指示に従い、パリのさまざまな場所を巡るうちに、彼女は自らの壮絶な過去を語り始めていた。


『HACHI 約束の犬』
監督:ラッセ・ハルストレム 2009年製作 / 93分 / アメリカ
新藤兼人監督作品『ハチ公物語』(1987年)のハリウッド・リメイク版。ある冬の夜、主人公のウィルソン教授は郊外の駅で秋田犬の子犬を見つける。妻の反対を押し切って飼うことにし、首輪のタグから「ハチ」と名付けて愛情を注ぐ。いつしか教授の送り迎えをすることが、ハチの日課に。しかし、教授とハチとの幸せな日々は長くは続かなかった。

『ハチ公物語』
監督:新藤兼人 1987年製作 /107分 / 日本
秋田県で生まれた子犬が、東京に住む大学教授・上野の元へ送られてくる。教授は「ハチ」と名付けて、愛情を注ぐ。成長したハチは、教授を渋谷駅まで送り迎えするように。教授が帰らぬ人となっても、生前と同じように渋谷駅前で彼の帰りを待ち続けるのだった。

この記事を書いた人
みつきらうら
ライター

チョコレートとコーヒーをこよなく愛すフリーランサー(コピーライター&翻訳家)。歌謡曲黄金時代生まれ。趣味は人間観察と俳句・短歌などの詩作。好きな映画は『冒険者たち』、『死刑台のエレベーター』、『黒い十人の女』など。好きな女優はジャンヌ・モローと若尾文子。茨城県日立市在住。

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