chapter2 :自責と他責とGood Will Hunting|Life Is Like A Movie

この世は壮大なフィクションでできている。
「人は独りでは生きていけない」
多くの人が信じている強固なフィクションのひとつだ。

大人になって、私たちは気付く。人は独りでも生きていけるということを。
独りで生きていけるようになると、煩わしい人間関係は最小限になる。それに自分のしたいことを、したい時間にすることができる。独りで生きることは楽しい。一人暮らしをした経験がある人にとっては、これは紛れもない真実だと思う。

しかし稀に、えも言われぬ孤独感に襲われることもある。自ら望んで独りで生きているにもかかわらず、孤独に耐えられなくなる瞬間があるのだ。私は孤独感に襲われたとき、よく映画を流していた。映画は孤独の友。いまでもそれは強く思っている。

孤独に寄り添ってくれる映画はたくさんあるが、私が好んでよく見ていたのは『グッド・ウィル・ハンティング』だった。天才だが素行の悪いウィルと、優しくて温かい(そして口が少し悪い)ショーンとの心の繋がりを描くヒューマンドラマである。

ウィルは決して、他人に心を開かない。恋人であるスカイラーに対してもだ。
ウィルは幼い頃、継父に虐待された過去を持っており、そのことが原因で本心を隠すようになってしまった。ウィルはよく嘘をつくが、それは自分が捨てられないための、防衛本能である。

他人に嘘をついて生きるのは簡単だ。「嘘をつき続けるのは疲れる」「背伸びして生きるのは嫌だ」という話をよく耳にするが嘘だと思う。本当の自分で人と関わっていくほうが何倍も疲れる。

ウィルは、だれかの言葉や思想をただインストールしているだけの空っぽの存在だ。ショーンは鋭くそれを見抜き、問う。
「お前は本当は何がしたいんだ?」
空っぽのウィルは、このシンプルで簡単な質問に答えることができない。難しい数学の問題は解けるのに!

ショーンの問いは、ウィルを通して、映画を見ている私たちにも突き刺さる。
「お前は本当は何がしたいんだ?」
その問いに人生をかけて向き合い、もがきながら、答えを掴みとれた人はたくさんいるとは思えない。そのときに答えが見つかったとしても、時間の流れとともに、それが砂の城のようにサラサラと崩れていってしまうからだ。

その後、継父に虐待されたウィルの過去が、リアルな実体験とともに明かされる。ウィルの壮絶な過去の告白を受けたショーンは、「辛かったな」とも「よく頑張ったな」とも言わない。ウィルの心を見抜き、ただこう語りかける。「It’s not your fault.(君のせいじゃない)」と。

父親が君を殴ったのは、君のせいじゃない。君が嘘をつくようになってしまったのは、君のせいじゃない。スカイラーとうまくいかなかったのは、君のせいじゃない。君が君らしくいられないのは、君のせいじゃない。

他責思考は、時に人の成長を止めてしまう危ういものだ。とはいえ過度な自責は、人を容易く滅ぼす。だから、罪や責任は正しい量を、正しい態度で背負う必要がある。しかし、自分一人では、それを正しく背負えているか判断するのは難しい。だから私たちには、正しく自分を見つめてくれる他者が必要だ。

人は独りでも生きていける。それはひとつの真実だ。それでも、私はショーンのようなメンターがそばにいてほしいと思う。

今、私たちが求めているのはカッコイイロールモデルでも、知識が豊富な教師でもない。私たちは、崩れ落ちてしまいそうな最悪な状況になったとき、隣で肩を抱いてくれるショーンを求めている。

「It’s not your fault.(君のせいじゃない)」。この台詞に何度救われただろう。本当にダメになりそうなとき、いつも私は『グッド・ウィル・ハンティング』を見る。そしてもう一度、人生というゲームに勝負を挑むのだ。


グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち
監督:ガス・バン・サント
1997年製作/127分/アメリカ

天才並みの頭脳を持ちながら、幼児期のトラウマが原因で周囲に心を閉ざし非行に走る青年と、妻に先立たれ人生を見失った精神分析医との心の交流を描いた感動作。本作で脚本家デビューを飾ったマット・デイモンとベン・アフレックが見事にアカデミー脚本賞を獲得したことで話題に。また、孤独な精神分析医を演じたロビン・ウィリアムズも助演男優賞を獲得している。監督は「ドラッグストア・カウボーイ」の鬼才ガス・バン・サント。

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この記事を書いた人
piiiyaaa

音楽と抽象的な映画と文学が好き。いちばん好きな映画は『永遠と一日』。いちばん見た映画は『ビッグ・リボウスキ』。ホラー映画とグロい映画は絶対に見ません。

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