Podcast 「シネマの前で論じること」のだいちゃんをゲストに迎えて番組の裏側に迫りました!
次回は、だいちゃんが監督・脚本・撮影を手掛けた作品
『嫌いながら愛する』についてお伺いしておりますのでお楽しみに!
シネマの前で論じること
「濱口竜介監督と対談する!」ことが夢の四国在住の映画ファンだいち。その夢を叶えるためにシネマと向き合い論じていくポッドキャストです。
#018 「シネマの前で論じること」の大ちゃんにインタビュー!の文字起こしです。
はじめに
皆さん、こんにちは。
この番組は、ミニシアターやミニシアター系映画が好きな人たちが集うコミュニティ「カシミヤフィルム」がお届けします。第17回「キネマデイズ」は、「シネマの前で論じること」、通称「シネ論」というポッドキャストを配信されているだいちゃんをゲストにお招きしました。
私自身がシネ論のリスナーで、いつも拝聴させていただいているのですが、あるきっかけで思い切ってDMを送らせていただき、交流させていただきました。今回、だいちゃんが監督・脚本を手がけた映画『嫌いながら愛する』が、11月1日にポレポレ東中野さんのポレポレ座というカフェで上映されるということで、その宣伝も兼ねて、ポッドキャストに出ていただけませんかとお誘いしたのがきっかけです。いつも聴いている番組のだいちゃんに来ていただけて、私はすごく嬉しかったです。聴いたことがある方もない方も、ぜひ聴いていただければと思います。
それではどうぞ。
「シネ論」と映画への情熱
みどり: では、簡単に自己紹介をお願いします。
だいちゃん: はい。「シネマの前で論じること」を配信しております、だいちゃんと申します。今日はよろしくお願いします。
みどり: よろしくお願いします。その「シネマの前で論じること」はどんな番組なんですか?
だいちゃん: そうですね。毎回言っているのですが、濱口竜介監督といつか対談することを夢見ています。四国在住の映画ファン、私、大地が、濱口監督の作品や影響を求めて作品を論じることで、来るべき日に備えて見聞を高めていくトークプログラムです。聴いて楽しんでくれる方がいればいいなと思いつつも、自分自身の自己研鑽という目的も強くありますね。
みどり: いや、すごいですよね。今回。初期の回も聴いてみたんですが、すごく変わったなと思いました。ご自身でも「話してきた甲斐があるな」と仰ってましたが、私もそう思います。
だいちゃん: 一応もう2年くらい続けています。毎回ちゃんと台本を作ってからやっているので、思いつきではなく、頭の中を整理した上でやっています。聴いてくださる方がいるので、完璧ではないにしても、それなりのアウトプットをする必要はあるかなと思って。それなりに調べものをして、きちんと根拠を揃えてからやっています。みどりさんに褒めていただけるだけのことはできたのかなと。
みどり: いや、すごいです。ちゃんと調べていらっしゃるのが伝わってきます。
だいちゃん: ありがとうございます。
みどり: いつから配信されているんですか?あと、配信しようと思ったきっかけも教えてください。
だいちゃん: 一昨年の10月から始めました。もうすぐ2周年を迎えます。始めたきっかけは、もともと「グッドウオッチメンズ」というチームで活動していました。僕には妻がいるのですが、妻が「シネ論」のプロデューサーをしてくれています。ある晩、散歩をしている時に、妻から「それだけ映画が好きだったら、もっともっとアウトプットしていけばいいんじゃないかしら」と言われたんです。
もともと映画に関わる仕事がしてみたいという気持ちはあったので、それなら独自性があって、自分のためにもなり、聴いてくれる人も楽しめる内容にしようと。濱口竜介監督にまつわる作品を扱うポッドキャストをやることで、自分も楽しみながら、聴いてくれる人も楽しめる番組になるかなと思って始めたんです。
みどり: 濱口監督がインタビューで好きだと公言している作品や、監督ご自身を扱ってるんですよね。
だいちゃん: そうですね。レギュレーションを設けていて、濱口監督が推薦コメントを出した作品や、海外の映画雑誌でランキング入りした作品を選んだりしています。もちろん、濱口監督自身の作品や、同世代のライバル的な存在の監督の作品も扱います。個人的な思いとして、若い映画監督を応援したいという気持ちもあるので、濱口監督から影響を受けているような監督の作品を扱うこともありますね。
みどり: すごく面白いです。ルーツがわかると、つながりが分かりやすくていいですね。
だいちゃん: 映画を見る面白さは点で追っていくこともありますが、ある程度ラインを引いてあげると、作品ごとの解像度が上がったり、見えなかったものが見えてくることがあります。濱口竜介監督という文脈からいろんな作品を見ていくというのは、「シネ論」を始めてから、より映画を見るのが面白くなったなと思います。
みどり: 私もカシミヤフィルムを始めてからすごく楽しくなりました。目的があると、より収穫がありますよね。
だいちゃん: そうですね。濱口監督と対談するという夢は、フルマラソンどころかウルトラマラソンよりも遥かに遠い先にある目標ですが、そこに向けて少しずつ頑張っていくというのは、苦にならずにできることですね。
みどり: コツコツ型なんですね。
だいちゃん: そういうタイプだと思います。
みどり: 論理的思考がすごい強いですよね。
みどり: でも聴いてていつもそう思います。あと、ご自身で「マッチョ」という表現をされますよね。ストイックな感じがします。
だいちゃん: どちらかというとそういうタイプかなと思います。
磨き抜かれた評論の秘訣
みどり: では、そんな「マッチョな評論」をするだいちゃんが、評論の参考にしていることや、専門的な知識はどこで勉強されているんですか?
だいちゃん: そうですね。映画を撮ってみた経験があるのが大きいと思います。どこにカメラを置いて、どのレンズで撮るかといったことは、実際に撮ってみると分かりますね。
みどり: すごいです。
だいちゃん: 「シネ論」は、作品を見た後に聴いても面白いし、逆に先に聴いてから映画を見ても面白いというバランスを心がけています。
みどり: 本とかも読まれたりするんですか?
だいちゃん: 映画の評論や原作本に限らず、本を読むのは結構好きですね。週1冊くらいのペースで読んでいます。
みどり: なるほど。本を読んだり、ご自身で撮ってみたりして、評論を考えている感じなんですね。
だいちゃん: そうですね。話し方のスタイルは、ライムスター宇多丸さんの影響を強く受けています。聴いていて楽しいし、映画が見たくなる。あと、濱口監督の評論家としての存在も面白いと思っています。映画を撮った経験という立ち位置から、映画のレクチャーをされている。そのお2人のスタイルを参考にしています。
みどり: 宇多丸さん、テンポも良くて面白いですよね。
だいちゃん: ラッパーだからこその語りだと思います。リズムや韻を踏んでいく感じが心地いいですよね。
みどり: 確かに。
だいちゃん: 僕も、「小難しい単語を言った後に、簡単な単語に要約する」というやり方は、宇多丸さんを参考にしているかもしれません。
みどり: 語彙力がすごいなといつも思っています。どうやって習得されたんですか?
だいちゃん: 自分で「こうやって語彙力を身につけました」と言うほど野暮なことはないかなと。でも、本を読むのが好きなのはありますね。あとは、自分が話した音声は必ず通しで聴いて、編集もするので、「ここはもっとこういう伝え方ができたな」と一人でセリフ反省会をしたりしています。そういうことも活きているのかもしれません。
みどり: 繰り返し考えているんですね。
だいちゃん: そうですね。原稿を作る作業も大きいです。濱口監督が影響を受けている作品は、ものすごく面白い作品なんです。でも、本当に面白い作品って、話すのがすごく難しいんですよね。それをどう話そうかと原稿を書きながら、自分はこういうことを感じていたんだなと整理する機会にもなるので、この「シネ論」のサイクルで言葉が磨かれていくのかなと思います。
みどり: 誰かと感想を話している時に、自分が思っていなかったことを口にし出す時がありますよね。
だいちゃん: 分かります。色々と活動していくと、自分より遥かに頭がいい方々と会う機会が増えてくるんです。すると、話している途中で自分の語彙力が引き上げられていくような感覚がありますね。
みどり: めっちゃ分かります。
だいちゃん: そういう周りの方々との出会いも含めて、今の活動から得たもので、言葉が磨かれていくのは嬉しいですね。
みどり: 私もそう思います。いろんな映画をたくさん見ていらっしゃる方のお話を聞くと、勉強になります。
だいちゃん: 一応、言っておきたいのは、僕そんなに映画見てないんですよ。今住んでいる場所が映画館まで時間がかかるので、機会が減ってしまっているというのもあります。映画館歴で数えると、まだ10年も経っていないくらいです。
みどり: すごいですね。でも、扱っている作品がすごいから、たくさん見ているように思われちゃうんですね。
だいちゃん: どこの趣味の界隈にもいますが、本当に「天上人」のような方々がいらっしゃいますよね。どうやってそんな時間を捻出しているんだろうと思います。
みどり: めっちゃ思います。カシミヤフィルムの編集部の方が去年300本見たと言っていて、「どうやって?」って聞いちゃいました。 私は今、100本を目指して頑張っているくらいです。
だいちゃん: でも、世界中の映画を一生のうちに全部見切ることは不可能なので、考えない方がいいと思います。見たい映画を優先的に見ていけばいい。気の向くままに良い作品を見ていけば、作品同士がつながって、「あ、これこうだったんだ」と分かってきたりしますから。
みどり: 意外でした。年間に何百本も見ていらっしゃらないと仰っていたのが。
だいちゃん: 生活もあるので、いろんなことを犠牲にしてまで見ているわけではないです。
濱口監督との出会いと「映画」の役割
みどり: では、映画にハマったきっかけや、濱口監督を好きになったきっかけは?
だいちゃん: 大学生の頃、なんとなく松坂桃李が好きで、『娼年』という映画を見に行ったんです。久々に一本の映画を見て、何回も泣いて、映画って面白いんだなと素直に思ったのが大きなきっかけです。
濱口監督との出会いは、『寝ても覚めても』です。濱口監督のことは知らない時に、なんとなくポスターを見て面白そうだなと思って見に行きました。その前に『ウインド・リバー』という映画を見ていたのですが、『寝ても覚めても』の衝撃で、その記憶が吹き飛ぶくらいでした。今までのどの映画とも似ていない、ラストがいいことなのか悪いことなのか全然分からないけど、心にこびりついてくるような感じがしました。
コロナ禍でミニシアターが大変な時に、濱口監督と深田晃司監督が「ミニシアター・エイド」というクラウドファンディングをされていました。その特典で濱口監督の作品を見ることができたんですが、いや、この人本当にすごいなと。『ドライブ・マイ・カー』はリアルタイムで見て、広島まで見に行きました。僕の人生です。その後に『偶然と想像』や『悪は存在しない』を見て、そのたびに衝撃を受けている感じです。
みどり: めちゃくちゃ好きっていうのが伝わってきました。濱口監督の作品は全部見ているんですか?
だいちゃん: 配信されていない作品も多いので、全部は見てないんです。東北の震災のドキュメンタリー三部作は見れていないので、いつか絶対に見たいと思っています。その映画はなかなか見ることができないんですか?
だいちゃん: 濱口監督は特集上映を割とやっているので、映画館で見る機会はあるんじゃないかと思います。
みどり: そうなんですね。私、1人の監督の映画を全部見たっていうのがまだないんです。
だいちゃん: その気になれば、ケリー・ライカート監督の作品は配信でも見れると思いますよ。
みどり: いいですね。ケリー・ライカート監督、私も大好きです。この間、特集上映で『オールド・ジョイ』を見ました。
だいちゃん: 『オールド・ジョイ』は本当に、たいしたことは起こっていないのに、感情が揺さぶられる映画ですよね。ただ男2人が森の中で温泉に入って帰ってくるだけなのに、語らずともいろんな感情が描かれている。
みどり: なんか、友達との環境の違いですれ違っていくこととか、誰もが経験することだったり。大人にならなきゃいけないのか、子供でいたいのかという葛藤が描かれていて、しかもはっきりと言わない感じがいいですよね。
だいちゃん: そうなんです。曖昧な関係が本当に素晴らしい映画だと思います。
みどり: カシミヤフィルムでも皆さんにオススメしたら、「全部アマプラに入ってるの全部見ました」とか言ってくれて、すごく嬉しかったです。ケリー・ライカートの作品は少ないから、コンプリートできそうですね。
だいちゃん: そうですね。
みどり: 商業的に載っているものであれば、あと2、3本だと思います。
大ちゃん:頑張ってください。
みどり: 頑張ります。
みどり: ちなみに、ケリー・ライカート監督以外で、思い入れのある監督はいらっしゃいますか?
だいちゃん: エドワード・ヤンや、エリック・ロメール、成瀬巳喜男などですね。この3人は「シネ論」でもよく名前が出ます。映画を撮ってみて改めて、この3人はすごいなと痛感するんです。映画の「技」が、技のための技になっていない。人間を描くためのものになっている。
みどり: エドワード・ヤン、私も初めて『カップルズ』を見に行ったんです。すごく若者がたくさん来ていて嬉しかったです。
だいちゃん: そうですね。エドワード・ヤンは本当に真剣に社会を眼差し映画を撮っている方だと思います。それが新鮮に感じるということは、そこまで世の中が進歩していないということの現れでもある。僕が『カップルズ』の回で濱口監督の推薦コメントを読んだ時、濱口監督が綴る言葉の強度に震えました。どうしたらこの社会で生きていけるのかというのをキャリアを通して描き続けたところが、愛すべきところかなと思います。
みどり: シネ論を聴いて、『カップルズ』以前の作品も見てみたいと思いました。
だいちゃん: エドワード・ヤンは「クーリンチェ少年殺人事件」から、キャリアを折り返すように明るい作品も撮るようになります。『クーリンチェ』と『恋愛時代』は配信にもあるので見れると思います。
ポッドキャストを通じて届けたいこと
みどり: そういったお話をだいちゃんはいつも「シネ論」で語っていらっしゃいますが、どんな人に聴いてほしいですか?
だいちゃん: 映画が好きな方はもちろんですが、この番組を始めたコンセプトとしては、自分より若い世代、20代や10代以降の方に、古典映画やミニシアター系の映画を見てほしいという思いがあります。
みどり: いいですね。
だいちゃん: 「シネ論」はアルゴリズムに則ってはいないので、再生数がどんどん伸びるような感じではないですが、配信するたびに作品を見てくれる方が何人かいるので、それがすごく嬉しいです。人気になったり有名になったりすることよりも、「こういう映画もありますよ」と発信して、少しでも映画を見てくれる人が増えてくれる方が、自分ができることとして有益かなと思っています。
みどり: そのアルゴリズムの行き末って、みんな同じ感じになっちゃうからつまらないなと思っています。
だいちゃん: そうですね。情報がいっぱいあるけど、貧しさも感じます。情報が表面的なインプットで終わってしまって、自分の言葉としてアウトプットできるようになるまでには時間がかかるという感覚が、生まれづらい世の中になっていると思います。
みどり: 映画をたくさん見たいけどどうしたらいいか分からない、人生の肥やしになることに気づいているけどどうしたらいいか分からないという人が、シネ論を聴いて映画の見方が深められたら素敵ですね。
だいちゃん: そういった方々の一助になれるのであれば、頑張っていきたいです。
みどり: 応援しています。
おわりに
みどり: はい、というわけで皆さんいかがでしたでしょうか。シネ論を聴いたことがある方は、番組そのままのだいちゃんだと思っていただけたかなと思います。実直に色々なお話を伺うことができました。
次回は、ご自身で監督・脚本をされた映画『嫌いながら愛する』についてお話を伺いますので、そちらもぜひ聴いてください。
「キネマデイズ」は、映画との出会いは人生を豊かにすると信じている人たちとの対談番組です。番組を気に入っていただけましたら、高評価とフォローをお願いします。また、番組の概要欄からフォームを設置しておりますので、ぜひ感想や質問、ご出演したいという方もご連絡お待ちしております。
それでは皆さん、またお会いしましょう。さようなら。