第1回「ワーキングマンは“闘いたい”」|エンドロールが終わるまで

エンドロールが終わるまで

ジェイソン・ステイサムは死なない。たとえ単身マフィアのアジトに乗り込もうと、サメに食われそうになろうと、CIAを敵に回そうと、映画の中で彼が負けることはない。

 ステイサムがかつての寅さんのように、お正月映画の新定番になって早3年。2024年1月5日には『エクスペンダブルズ ニューブラッド』、2025年1月3日は『ビーキーパー』、そして今年2026年1月2日からは『ワーキングマン』が公開された。アクション映画の巨匠ブルース・ウィリスやジャッキー・チェンのように、“ジェイソン・ステイサム”というジャンルが確立されたと言っても過言ではない。

字幕翻訳者になって今年で9年目。ご縁があり、今月からカシミヤフィルムさんで映画にまつわるコラムを書かせてもらうことになった。 学生時代は学校帰りにTSUTAYAへ寄り、DVDを借りるのが日課だった。            

今でも映画館には月に数回行くし、年間100本以上は鑑賞している。この連載では僭越ながら、おすすめ作品の心に残った台詞をご紹介できればと思う。

前置きが長くなったが、今年ももちろん新年一発目の映画として『ワーキングマン』を選んだ。新年にステイサム映画を見ることを、私は勝手に「ご来光」と呼んでいる。なぜかって? ステイサムのスキンヘッドがおめでたそうだからなんて…口が裂けても言えない。

『ワーキングマン』のあらすじをざっと説明すると、建設現場で働く元特殊部隊のレヴォン(ステイサム)が、誘拐された上司の娘を救うためにマフィア相手にドンパチ戦うというお話。監督は『ビーキーパー』でおなじみのデヴィッド・エアー、そして脚本はシルヴェスター・スタローンが手がけている。 実はこの映画、チャック・ディクソンの小説『Levon’s Trade(原題)』を原作としており、この小説を気に入ったスタローンが、ステイサムを主人公にするためレヴォンを英国人設定に変更したらしい。よってレヴォンは元英国海兵隊特殊部隊員。退役し、現場監督として普通の生活を送っていたが、ワケあって暴力の世界に戻ってくる…。というのは、最近のステイサム映画の典型的パターンだ。

ちなみに昨年公開の『ビーキーパー』でも元工作員の養蜂家(ビーキーパー)だった。 建設現場の監督という設定なので、作業員姿のステイサムが開始5分ほどで暴れ始める。見ているほうはスカっと爽快。しかし、その瞬間湯沸かし器のような暴力性こそが、彼をある問題から抜け出せなくさせているのだ。

さて、私がこの作品の中でとても惹かれた台詞がある。それは上司の娘・ジェニー(アリアンナ・リヴァス)とレヴォンが何度か口にする“闘いたい”だ。 本作品のキャッチコピー「現場をナメるな」を体現するかのように、ステイサムが悪党どもを撃ちまくる、殴りまくる、投げまくること116分。確かにツッコミたくなるシーンはあるが、この手の映画に求めるのは結果ではなくプロセスだから、野暮なことは言いっこなしだ。そして彼が向き合う相手は、なにも悪党だけではない。ジェニーは優等生だった自分の殻を破るため、レヴォンは娘と一緒に暮らすため、自分自身と闘っている。単に暴力で敵を倒すだけなら“戦いたい”で済むはず。そこに“闘いたい”という言葉が選ばれている点に、私は心を掴まれた。

2026年の始まり。今までアクション映画とは無縁だったけど、何か映画を見たいな~という方にも、ぜひこの作品を見ていただきたい。もはや“ジェイソン・ステイサムの福袋”。「みんなが見たいもの全部詰め込みましたよ」と言わんばかりの展開に、胸がすくこと間違いない。

 ジェイソン・ステイサムの勢いは止まることを知らない。1月30日には『Shelter(原題)』、8月には『MUTINY(原題)』が全米公開予定。『ビーキーパー2』も2027年1月15日に全米公開が決まった。この『Shelter(原題)』『MUTINY(原題)』のうちどちらかは、来年のお正月映画になるのではないかと予想している。 いつか私もステイサム作品を翻訳することを夢見て、レヴォンのように自分自身と闘いながら2026年も邁進していきたい。

作品紹介

『ワーキングマン』

監督:デビッド・エアー
2025年製作/116分/PG12/アメリカ
原題または英題:A Working Man
配給:クロックワークス

ジェイソン・ステイサム主演、デヴィッド・エアー監督のタッグが贈る痛快アクション。元特殊部隊員のレヴォンは、建築現場の監督として平穏に暮らしていたが、恩人の娘の失踪を機に巨大な人身売買組織との戦いに身を投じます。シルベスター・スタローンが製作・脚本に名を連ね、重厚なドラマを構築。工事用具と銃火器を駆使し、大切な「家族」を奪還するため、封印していた戦闘スキルを爆発させる無双劇が見どころです。

この記事を書いた人
長 夏実
字幕翻訳者/ライター

英語・中国語→日本語の字幕翻訳者。2017年に翻訳者としてデビュー。代表作は「ブラザー 富都のふたり」「ボーイ・キルズ・ワールド」「12月の君へ」「フライト・フォース 極限空域」など。

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