『I Like Movies』皆さんは観ましたでしょうか?
日本では2024年の12月27日から上映されており、僕は年納め映画として観に行きました。
舞台は、レンタルビデオが最盛期だった2003年のカナダの田舎町。映画が大好きなローレンスは地元の大学への進学よりも、ニューヨーク大学でトッド・ソロンズ監督から映画を学ぶことを目指します。
ローレンスの直近の課題はお金。ニューヨーク大学は多額の学費が必要になるため、「Sequels」という地元のレンタルビデオ屋でアルバイトを始め、そこで店長のアラナとちょっとずつ親しくなるのですが、、、
物語自体は、起伏が激しいわけではないのですが、口論のシーンがいくつかあり、ローレンスの心理描写もとても丁寧なので、途中辛く感じるところはありました。ただ、そのシーンがあるからこそ心に沁みる場面もいくつかあり、その度目が潤むのを堪えながら観ていました。
何より、ローレンスが自分とそこそこ重なる人間だったんです。
高校生の頃に映画を狂ったように観て、自分の気に入らないことに関しては簡単に蔑んでしまう。そんな卑屈な心を持ったマニアだったのは僕も同じでした。
といっても、僕はローレンスほど悪態をつくようなことはなかったと思います笑
僕の場合、映画の話は主に家族にしていたので、親からはうざがられてましたけど、弟だけ「うんうん」と聞いてくれていて、兄弟がいるありがたさを知りました。
その点、一人っ子のローレンスは話し相手となると母親か一人の親友に限られているので、つい捲し立ててしまうのも仕方ないのかなと思います。
ローレンスは、過剰にうんちくを披露したり、嫌なものは嫌と言い切ります。人の話を聞いて受け入れるという過程をすっぽかして、自分の思う通りにならないと憤慨する有様です。
こうやって聞くだけだと、めちゃくちゃ嫌なやつだし、映画の主人公だなんて変すぎますよね笑
でも、ローレンスを見ているととっても愛しいなと思ってしまうんです。
彼のようなどうしようもない人間が、その卑屈さをどうやって脱ぎ捨てるのか、どうやって成長していくのか、その過程がまさにこの映画で描かれているから愛しいと感じてしまうのかもしれません。
これはネタバレになってしまいますが、ローレンスの父親は自殺をしているのです。それが彼の映画好きと卑屈さを加速させているなと感じました。
父の自殺により周りの人間や社会を信じられなくなり、映画に居場所を求めている。そんな背景があるような気がします。
僕は、父親を亡くしかけた経験があります。中学生のとき、父が不整脈で倒れて一時は息が止まってましたが、看護師である母の救命救急により一命を取り留めました。今では元気に生きてます。
結果的に父が元気に今も生きているのは喜ばしいことなんですが、当時の僕は勉強や部活が上手くいってない中での父の病気があったために、精神的に不安定な日が続き、抑鬱状態になっていました。
自分を含む全ての人間を嫌いになって、それこそローレンスのように卑屈になっていました。
高校からはだいぶマシになりましたが、ローレンスと同じく居場所を求めて映画を観ていたような気がします。彼は、父の自殺によりパニック障害という重い爪痕が残ることになりますが、それを自分の弱さにせず、自分なりに現実を対処しようとしている姿があるなと思いました。特にスタッフルームに篭ってしまうシーン、あれは側から見たらどうしようもないやつですが、最もローレンスらしいシーンだとも思います。彼は、彼なりに現実と闘っているのです。
ローレンスは、バイト先で店長のアラナと出会い、様々なコミュニケーションを経て自身の卑屈さやナルシズムに気づきます。そこで彼は、相手の好きなことや興味のあることを聞くことが親密になる第一歩だと学びます。
自分のことばかり捲し立てるのをやめて、相手の話に耳を傾ける。これは、僕にも十分刺さる助言でした。4年ほど前に彼女と付き合い始めて、ようやく人と付き合うことの難しさを実感したところで相手の話を聞くとはどういうことかを学びましたが、今となっても話を聞くというのは意識して行う必要があると思っています。
ローレンスも僕もそうですが、自分の歪みに気づくためには、その鏡となる誰かが必要であり、それは踏み込んだ関係の誰かじゃないといけないのかもしれません。
今作はそんな一人の青年の成長譚であり、どうしようもない人間でありながらどこか憎めない、むしろ愛しく感じる物語でした。
ここまで僕の話に付き合っていただいてありがとうございます。
最後に、あなたに聞きたいことがあります。
「映画は好きですか?」
今作の舞台の一つ「Sequels」というレンタルビデオ屋は、廃業した実際の空き店舗を使って撮影されたとのこと。
細部にこだわった店のデザインや陳列の風景はどこか懐かしい空気がまとわりついている。
レンタルビデオは今となってはもう古き良き文化となってしまった。
日本ではTSUTAYAがどんどん閉店していく中(ゲオは未だに生き残っているが)その衰退を感じざるを得ない。
いつの間に私たちはレンタルビデオという文化を捨ててしまったのだろう。
NetflixやU-NEXT,Amazon Primeなどの動画配信サービスが一般化するにつれて(さらに新型コロナが追い打ちをかけて)、レンタルビデオ屋へ足を運ぶことが無くなった。
わざわざ行かなくても家で観たい時に観たいものが観れる。
本当にそれでよかったのだろうか?
店へ行くと、所狭しに映画やドラマが並べられている。
嫌でもたくさんの作品が目につくし、目当てのものを探しているうちに他の作品に目が移ったりもする。
さらにレンタルするという行為によって、半ば強制的に映画を観る心構えができる。
どうだろう、Netflixで映画を観ようとしたとき、まあ明日観ればいいかと諦めたことがあるのでは?
レンタルでは、「借りたからには観ないと」という気持ちが生まれて、概ね観ていたのではないか。
映画好きにとって、配信はありがたいもののレンタルという手段は捨てがたいと思う。
それはレトロだからとか、思い出深いとかという理由より、レンタルするという体験でしか得られない満足感があったからだ。
いつかレンタルビデオがリバイバルする日が来るだろうか。
『I Like Movies』がそのきっかけになったらこれほど嬉しいことはない。
I Like Movies
2022年製作/99分/G/カナダ
配給:イーニッド・フィルム
劇場公開日:2024年12月27日
監督_チャンドラー・レバック
製作:リンジー・ブレア・ゲルドナー エバン・デュビンスキー チャンドラー・レバック
製作総指揮_ビクトリア・リーン マイケル・ソロモン
レンタルDVD全盛期の2003年カナダを舞台に、他人との交流が苦手でトラブルばかり起こしてしまう映画好きな高校生の奮闘を描いた青春コメディ。
カナダの田舎町で暮らす高校生ローレンスは映画が生きがいで、ニューヨーク大学でトッド・ソロンズ監督から映画を学ぶことを夢見ている。社交性に乏しい彼は唯一の友人マットと毎日つるみながらも、そんな日常が大学で一変することを願っていた。高額な学費を貯めるために地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始めたローレンスは、かつて女優を目指していた店長アラナらさまざまな人たちと出会い、奇妙な友情を育んでいく。そんなある日、ローレンスは自分の将来に対する不安から、大事な人を決定的に傷つけてしまう。
監督・脚本は、本作が長編デビューとなるチャンドラー・レバック。監督の自伝的ストーリーながら、主人公の性別をあえて男性に変更して撮りあげた。主演はラッパーとしても活動する若手俳優アイザイア・レティネン。

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