意外なリメイク作品 ラブ&サスペンス編1 ①|映画と現実は隣り合わせ

映画と現実は隣り合わせ

『アルフィー』は、様々なタイプの女性と付き合うプレイボーイ。あるときは夜の波止場で人妻と、またあるときは部屋でシングルマザーと。自身の恋愛観をカメラに向かって話すという演出スタイルがユニークです。オリジナル・リメイク版とも軽妙に物語が展開するようにみえて、実は重要なテーマも描かれています。

オリジナル版では、アルフィーは入院中に同室だった男性の妻と関係を持ったがゆえに、(1966年制作当時の英国では)違法な中絶に手を出してしまいます。軽はずみで楽しんだだけのアバンチュールが、「新しい命を葬る」結果になってしまうのです。リメイク版では、職場の同僚で親友でもある男性の妻と関係を持ち、二人の信頼関係だけではなくその家族にも暗い影を落とすことに。

女性の鑑賞者にとっては腹立たしく思えるシーンが続くものの、やがてアルフィーは自身の罪深さに気づいていきます。大金持ちで会社経営者でもあるマダムのジゴロになろうとしていましたが、彼女からの衝撃的な一言が「女性をモノ扱いしてきた」自身を改めるきっかけになるのです。そして、付き合う女性を次々と替えても虚しさを感じていたことを認めるようになります。

リメイク版では舞台がロンドンからニューヨークに変更され、マイケル・ケインが扮したアルフィーをジュード・ロウが演じています。彼がベスパでマンハッタンを駆け抜けるシーンは、絵になります。気が重たくなりがちなエピソードがありつつも、全体的には軽妙なシニカル・ラブコメディといったところ。オリジナル版からは60年代のスウィンギング・ロンドンのムード、リメイク版からは2000年代前半のポップなニューヨークのムードが感じられます。それぞれのモンタージュ風エンドロールも小粋です。

『華麗なるギャッツビー』の主人公ギャッツビーは、一人の女性への想いを貫こうとする男性です。将校時代に出会ったデイジーとの結婚を叶えるために財産を築いたギャッツビーは、彼女の屋敷の対岸に豪邸を買い、頻繁に豪華絢爛なパーティーを開きます。すべてはデイジーのためでしたが、彼女にはすでに家庭がありました。それでも「過去は取り戻せる」と信じて疑わないギャッツビー。しかし、彼が見つめる対岸の桟橋にともる灯のように、彼女は「手を伸ばせば届きそうで届かない」存在だったのです。

ときは、第一次大戦後の空前の好景気に沸く「狂騒の時代」。ジャズやチャールストンなどのダンスが流行し「ジャズ・エイジ」とも呼ばれ、アールデコ調のファッションが華やいだ頃。物語は、まさにその「時代の寵児」ギャッツビーの隣人であり、デイジーのいとこでもあったニックの語りと回想で進められていきます。

デイジーへの純粋な想いを結実させるべく財を築くためなら、株操作、密造酒販売など「手段を選ばない」ギャッツビーの矛盾した姿が浮き彫りに。彼の根底にあったのは、(裕福な家庭出身のデイジーとはかけ離れた)貧しい出自への劣等感でした。それを隠し、嘘と虚栄心で身を固めたギャッツビーがロールス・ロイスで疾走するように、物語は一気に悲劇的な最期へと向かっていくのです。

オリジナルとリメイク版ともにほぼ原作通りに描かれ、オリジナル版ではロバート・レッドフォードが、リメイク版ではレオナルド・ディカプリオがギャッツビーを演じています。

原作はオリジナルとリメイク版ともにF・スコット・フィッツ・ジェラルドの『グレート・ギャッツビー』。オリジナルの脚本は『ゴッドファーザー』でお馴染みのフランシス・F・コッポラ。劣等感が抱かせるのは、羨望と嫉妬と欲。そして、見栄を張るために嘘をつくようになると、やがては取り返しがつかなくなり、最悪の場合、犯罪に手を染めることも。『太陽がいっぱい』とリメイク版『リプリー』は、まさにそんな男性が主人公。

どちらもパトリシア・ハイスミスの小説『太陽がいっぱい』(英題は‟The Talented Mr.Repley”)を元にしていますが、トム・リプリー他登場人物の人物設定はやや異なります。原作での彼は天才詐欺師として描かれていますが、オリジナル版での彼は定職に就かない青年。リメイク版のトムは、ピアノの伴奏者として暮らす青年です。また、前者ではフィリップ(原作のディッキーから名が変更)の趣味は絵を描くこと。後者でのディッキーの趣味はジャズです。

オリジナル版でのトムには感じられなかったものの、原作では曖昧に書かれている同性愛者的な傾向が、リメイク版でのトムには感じられます。

トムは、グリーンリーフ氏からの依頼で息子のディッキーを連れ戻すために、アメリカからナポリへ渡ります。恋人のマージと過ごすディッキーに身を偽って近づき、親交を深めるうちに彼に恋心を抱くように。しかし、それが叶わないと知ったトムは、苛立ちから彼に成りすまし犯罪を重ねていくのです。また、原作とオリジナルには登場しない人物、メレディスとピーターが登場し、さらに異なる物語が展開していきます。最終的にトムは、彼を受け入れてくれたこの二人をも裏切ることになります。

『太陽がいっぱい』で「完全犯罪を成功させるトム・リプリー」を演じたアラン・ドロンが強烈な印象を残した一方で、リメイク版でのマット・デイモンは、「常に自信がなく不安と罪悪感に苛まれるトム・リプリー」の物語を成立させています。終盤で彼は「自分を偽っているうちに、自分が誰だかわからなくなった」とピーターに打ち明けます。トムから「僕のいいところを教えて」と尋ねられ、ピーターが答えるシーンはとても切ないです。

作品紹介

『アルフィー』
監督:チャールズ・シャイア 2004年製作 / 105分 / アメリカ
最高の女性との出会いを求めてイギリスからNYにやってきたアルフィー(ジュード・ロウ)。リムジンの運転手として働きながら、シングルマザーや人妻、同僚で親友の恋人、会社経営者と、様々なタイプの女性たちと付き合っていた。結婚を望まないアルフィーは、相手が自分に本気になり出すと気が重たくなり、また他の女性に目を向けるのだった。マイケル・ケイン主演『アルフィー』(1966年)のリメイク版。

『アルフィー』
監督:ルイス・ギルバート 1966年製作 / 114分 / イギリス
ロンドンのイースト・エンドのうらぶれたアパートに住むアルフィー(マイケル・ケイン)は、職を転々としながら、次々と恋人を替えるプレイボーイ。女性に対する欲求が強く、相手の好みに合わせて身なりや態度を変えるのが得意。付き合う女性が本気になり出した頃合いをみて、逃げる術も心得ている。しかし、恋愛を楽しむ一方で、彼の心が満たされることはなかった。彼の軽はずみな行動はやがて因果応報となって返ってくる。

『華麗なるギャッツビー』
監督:バズ・ラーマン 2013年製作 / 142分 / アメリカ
舞台は空前の好景気に沸く1920年代のNY。豪邸に暮らし、豪華絢爛なパーティーを開くギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)。隣人の青年ニック(トビー・マグワイア)は彼から自身の生い立ちを聞かされるが、彼を取り巻く怪しいつながりに気づき、疑念を抱く。F・スコット・フィッツジェラルドの小説『グレート・ギャツビー』を元にした同タイトル(1974年)のリメイク版。衣装協力はブルック・ブラザーズ、プラダ、ティファニー。

『華麗なるギャッツビー』
監督:ジャック・クレイトン 1974年製作 / 141分 / アメリカ
将校時代に出会ったデイジーとの結婚を望むギャッツビー(ロバート・レッド・フォード)は、財産を築いた後、彼女の屋敷の対岸に豪邸を購入。しかし、そのときデイジー(ミア・ファロー)にはすでに家庭があった。それでも「過去は取り戻せる」と信じてやまない彼は、隣人であり彼女のいとこのニック(サム・ウォーターストン)に近づく。脚本はフランシス・F・コッポラ。衣装協力はラルフ・ローレン、カルティエ。

https://www.imdb.com/title/tt0071577/?ref_=vp_ov_btn

『リプリー』
監督:アンソニー・ミンゲラ 1999年製作 / 140分 / アメリカ
貧しいアメリカ人青年トム・リプリーは、富豪のグリーンリーフ氏からの依頼で息子ディッキーを連れ戻すためにナポリに向かう。身分を偽ってディッキーに近づき、行動を共にするうちに、自由奔放な彼とその豪勢な暮らしぶりに魅せられてゆく。そして次第に危険な考えがよぎるようになるのだった。パトリシア・ハイスミスの小説『太陽がいっぱい』(英題:The Talented Mr.Ripley)を元にした『太陽がいっぱい』(1960)のリメイク版。

https://www.imdb.com/title/tt0134119/?ref_=vp_close


『太陽がいっぱい』
監督:ルネ・クレマン 1960年製作 /122分 / フランス、イタリア
パトリシア・ハイスミスの小説『太陽がいっぱい』(英題:The Talented Mr.Ripley)を映画化した、アラン・ドロン主演にして出世作のサスペンスドラマ。貧しいアメリカ人青年トム・リプリーは、富豪のグリーンリーフ氏からの依頼で、放蕩息子のフィリップを連れ戻すために南イタリアにやって来る。やがて彼に怒りと嫉妬を覚えるようになったトムは、フィリップを殺して彼に成りすまし、完全犯罪を試みる。音楽はニーノ・ロータ。

この記事を書いた人
みつきらうら
ライター

チョコレートとコーヒーをこよなく愛すフリーランサー(コピーライター&翻訳家)。歌謡曲黄金時代生まれ。趣味は人間観察と俳句・短歌などの詩作。好きな映画は『冒険者たち』、『死刑台のエレベーター』、『黒い十人の女』など。好きな女優はジャンヌ・モローと若尾文子。茨城県日立市在住。

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