最近、ヨルゴス・ランティモスの籠の中の乙女が話題に上がっており、どこかでこの映画観たことがあるぞ、と思って調べてみると、洋題で“Dog tooth”。なるほど、どうりで海外にいる時に映画の授業で観せられたものだった。
日本で映画の学校に通っていたわけではないのでどのような授業が繰り広げられるのか分からないが、いま思えばあの時の先生たちのセレクションはクセが強かった。ファニーとアレクサンドル、イレイザーヘッド、Old boy、マッチファクトリーガール、わたしはロランス、The fly などなど今思い返すと統一感もなくトラウマになる映画も多かった。授業内容はというと、映画を観てディベートするというかなりラフな授業だったので、私にとっては神授業でしかなかったが、ラフすぎた。そして何を学んだかは聞かないで欲しい。
でも同時に映画の面白さと、こんな映画もあるのか!とわたし自身の映画の世界が広がり、”映画“にハマったのもその時だった。
もちろんその授業をとったのはもともと映画が好きだったからなのだけど、授業で出会った人たちや全く関係のないバイト先の友人らの映画に対する情報量は半端ないもので、こんなにもみんな映画について詳しいのか、とビックリし、なんだか自身が情けなくなったものだった。
アメリカ人の友人になぜかトニー滝谷の良さを教えられ、ロシア人の友人が素晴らしい監督がいる!といって意気揚々と教えてくれたのがキアロスタミで、スペイン人のクラスメイトが、スペインの偉大なる監督を知らないのか!と自慢気に話してくれたのがアルモドバルだった。もう10年以上前の話だ。
そうやって様々な刺激を与えられ、もっと知らない世界を知りたい!と思ってたどり着いたのが今はなきFilm Struckだった。残念なことに2018年にサービスは終了してしまっている。このチャンネルを教えられた時には、まぁ、衝撃だった。教えてくれた人はカフェで働いていた時の映画関連の仕事をしているらしい常連さんで、ウェス・アンダーソンとお友達と言っていた。真偽は分からないが、そこはニューヨーク、ありえる話だ。話はそれるが、もうひとつの私のバイト先の常連にはポール・ダノがいた。唯一の自慢だ。大きい声では言えないが、けんちん汁が好きだった。
さて、本題だがFilm Struckとは、いわゆるNetflixやアマプラのようなストリーミングサービスなのだが、特にクラシック映画やアート映画、ど真ん中の国以外の映画(伝わったら嬉しい)が豊富だったので、個人的に日本の今でいう“ザ・シネマ”に近い気がする。が、もっともっと作品数は多い。
何がそんなに凄かったのかというと、ヤヌス・フィルムが配給する作品映画を視聴できた点である。ヤヌス・フィルムはいわゆる配給会社なのだが、黒沢明、ベルイマン、トリュフォー、フェリーニなどなど巨匠と呼ばれる監督の作品をラインナップしている。もちろんその他にも名だたる監督作品もラインナップし、それらが当時月額600円(確か)で見放題なのだから、もう神としかいいようがない。
わたしはこのストリーミングサービスにから映画を教えられたと言っても良いくらい頼りまくっていたので、なくなると聞いた時はとてもとてもショックで仕方がなかった。
なんならこのサービスを日本に持って来たいと心の底から思った。調べてみると、今はCriterion Channelとして引き継がれているそうだが、切に日本でもサービスが開始される日が来るのを楽しみに待っている。
ちなみこのサービスの母体はCriterion Collectionというのだが、この会社はヤヌスで配給された映画のリマスターやDVD化などを行いみなさんにお届けする会社であり、Chat GPTに言わせると、ヤヌス・フィルムは映画を「劇場に届ける会社」、クライテリオン・コレクションは「家庭向けに映画を提供する会社」という関係である、とかなり的確な説明が返ってきた。
例えば、黒澤明の『七人の侍』はヤヌス・フィルムがアメリカで配給し、その後クライテリオン・コレクションがリマスター版を制作し、高品質なBlu-rayとして販売するといった流れに至ったという。具体的な例までくれてありがとう。
最後に、いつか私がこの素晴らしいストリーミングサービスがあったことを皆さんにお知らせする日が来た時のためにと思って保存していた、Film Struck貴重なサヨナラムービーをシェアしようと思ったのだが、著作権の問題もありそうなので、こちらの紹介ムービーシェアしようと思う。
Youtubeチャンネル内ではアクターアクトレスがお気に入りのムービーを紹介しているので、新しい発見があるかもしれない。

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